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未完成の恋
003


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「木月っ、テメェ……!」

血のにじむ口元を拭いぎらついた目で俺を睨み付ける金髪の男。コイツの名前は九条智之。ここらへんの不良をしめている頭だ。どうも俺が気に入らないらしい九条はお仲間を引き連れ俺を屋上に呼び出した。

「もう終わりかよ、九条」

もぞもぞと動く男共が俺の足元に倒れ込んでいる。九条が連れてきた奴らは本当に骨がなかった。パンチ一発で倒れるなんて、俺に喧嘩売るのは百年早いと一喝したくなるほどだ。

「この…、クソ野郎ぉぉお!!」

九条は怒鳴りながら俺に向かって走ってくる。まだ走れるなんて驚きだ。
顔に振り下ろされた拳をなんなく受け止め俺は奴の腹部に回し蹴りをくらわした。

「ぐはっ……!」

九条の口から赤い液体が飛び出す。無様な奴の姿を見ても、どうしてだか、いつもの興奮はわいてこなかった。

その原因がなんなのかわからないまま、俺は九条の髪を乱暴に掴み顔を持ち上げる。奴の目にはやりきれない悔しさと俺への少しの恐怖が入り乱れていた。

「たった1人の後輩によってたかって、酷いと思いません? 先輩」

わざと優しい声をかけてやる。九条は痛みに耐えるように唇を噛み締めた。

「残念だな、九条」

俺は口のはしをゆがめせせ笑う。

「たとえお前が逆立ちしたって、俺に傷一つつけられねぇよ」

自分が優越感にひたるための言葉を吐く。効果はテキメンだったが残念だったのは俺の方だ。九条の目を見ても、奴をどれだけ殴っても、今は楽しいとは思えない。俺の心のモヤモヤが消えることはついになかった。




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かなり長い間、放心状態だったように思う。どれくらいの時間がたったかわからない。時間を確かめるため携帯を取り出そうとしたが、ズボンのポケットには何も入っていなかった。どうやら教室に忘れてきたらしい。
いつもならここで舌打ちのひとつでもしているところだが、この時の俺はとくにイラつきもせず体育倉庫を飛び出し教室へと急いだ。


俺のクラスは北館、一階のつきあたりにある。俺は気だるい体をせかして無理やり足を進めた。人の気配のない廊下に俺の足音だけがむなしく響く。途中、5組の隣にある空き教室の前を通った。そこはつい最近九ヶ島に連れ込まれた場所だ。なるべく何も考えないように努力しながら、俺は足早にその教室を通り過ぎようとした。

だがその瞬間、空き教室から声が聞こえ怪訝に思った俺は足を止めた。それを後々、後悔することになるとも知らずに。

教室の窓は曇りガラスになっていたが一番後ろのドアにつけられたガラスだけは違う。俺はそこから何の気なしに教室をそっと覗き込んだ。



「…嘘、だろ……」



声にならない声をあげた俺は、自分の信じてきたものがあっさりと、しかし確実に崩れていくのを感じた。


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あきゅろす。
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