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未完成の恋
この気持ちに嘘はない


学校に向かって1人とぼとぼと歩いていた俺は、一本道のはるか前方にひなたを見つけた。上半身が傘で隠れていたが俺にはひなただとすぐにわかった。

「ひなた!」

俺はバシャバシャと水たまりも気にせずひなたに駆け寄る。

「あ、おはよう圭ちゃん」

ふにゃっとした笑みを見せるひなたの頭を俺はそっとなでた。

「…ひなた、制服びしょびしょ」

「ほんとに?」

ひなたは気づいてなかったみたいだが、膝から下は水につかったみたいに濡れている上、通学カバンは中までぐちょぐちょだ。

「コレはひどいぞ…。どうしたんだよ」

あまり周りを気にしない俺は毎日ずぶ濡れだったが、ひなたは違う。それなのに今日は俺にも引けを取らないくらい制服を湿らしていて、ひなたの傘は自らの役割を果たしていなかった。だが隣で歩くひなたはそれを特に気にする様子もない。

「ひなた?」

俺いつもと違う印象を受けるひなたの肩に手を乗せ、顔を覗きこんだ。

「…ぁ、ごめん圭ちゃん」

ひなたはばつが悪そうに俺に微笑みかける。だが俺にはひなたが無理やり笑ったように見えた。

「どうした? …なにかあったのか?」

「別に、何もないよ」

はぐらかそうと肩をすくめるひなたは相変わらず嘘が下手だ。出来るだけ怒ったように見える顔で俺はひなたを睨んだ。

「ひなた、本当のこと言えよ。俺に嘘なんか通じねえんだからな」

うっとつまるひなたの顔に射るような視線を向ける。俺のこの目を見て逃げ出さない奴は数えるほどしかいない。

「…やっぱりさ、難しいんだよ」

ひなたは唐突に小さく呟いた。ひなたの声は今にも雨でかき消されそうだった。

「いつかは好きになってもらえるって、信じてるだけじゃ」

この時、俺は嫌でもわかった。ひなたを暗くしてる原因が何なのか。

「…九ヶ島」

自分でもびっくりするほど冷たい声が出た。そんな俺を見て途端にひなたが焦りだす。

「あの、別に九ヶ島先輩が悪いんじゃないからね。僕が勝手に落ち込んでるだけだから」

ひなたが九ヶ島をかばって、俺から守ろうとしているのがすぐにわかった。俺の胸はきゅっと、まるで誰かに握りしめられたかのように締めつけられる。

「僕じゃ……駄目なのかもしれない」

こんな顔させたくないのに。もし俺がいなければ、ひなたが悲しむことはなかっただろうか。もし俺が──

肩を落とし目を伏せるひなたの横顔は、女よりも綺麗だった。気がつくと俺はそんなひなたの肩をつかんでいた。

「圭ちゃん…?」

歩みを止めるひなた。それと同時に俺は傘を手放した。

「えっ、ちょっと、圭ちゃん!」

俺に抱きしめられたひなたはひどく動揺しているが、俺はそんなこと気にしない。登校時間のため周りにはたくさんの学生。彼らの視線を感じたが俺はひなたを放す気にはなれなかった。周りにどう思われようと、そんなのどうだっていいことだ。少なくとも、今の俺にとっては。

「い、いったいどうしたの?」

「───っ」


何も、言えなかった。
俺がしてることを考えれば当然だ。ひなたの悲しみに沈む顔を見て、俺は消えていったはずの罪の意識が再燃するのを感じた。


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