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未完成の恋
004


俺が颯太先輩と別れ教室に戻ると、ひなたはすでにいつもの席に座っていた。俺は少し緊張しつつひなたに近づく。ひなたは今、成瀬にフラれ傷心の思いに違いない。だがあんな奴別れて正解だ。理由も知らないまま別れるのが一番いいはず……。

「……ひなた?」

俺が遠慮がちに声をかけると、ひなたが振り向いた。

「おかえり、圭ちゃん」

振り向いたその顔はいつもの笑顔だった。ひなたの何ら変わりない反応に、俺は面食らった。てっきり目を赤く腫らし泣いていると思ったのに。

「なに、その顔」

ひなたは少し馬鹿にしたような笑みをもらし、俺をまじまじと見つめる。

「ひなた、お前俺に何か言うことないか?」

「……言うこと?」

ひなたは目をぱちぱちさせた。

「……特に、ないけど」

俺が必死で守ってきたはずの親友は、あっさりとそう言った。
どういうことだ? ひなたが隠してるのか? いや、ひなたが俺にそんな隠し事するわけねえ。俺は胸の奥がざわついて、恐ろしい予感を感じた。


プルルルル

「うぉ!」

急に携帯が鳴りだし、俺は本気で驚いた。

「…でないの?」

携帯電話を取り出さない俺にひなたが怪訝そうに尋ねた。

「いや、でる」

動揺したままの俺はポケットに手をいれ携帯電話を開く。画面には知らない番号が。いつもなら無視するところだが、この時の俺はどこかおかしかった。

「もしもし」

『ぶはっ』

俺がバカ正直に応答すると、受話器の向こうの相手は思い切り吹いた。

『お前、電話は普通に出るのな』

この人を小馬鹿にしたような声。間違いない。どうして俺の番号を知ってるんだ。

『よう、圭人。昨日ぶりー』

九ヶ島。

「どういうことだ」

俺はひなたに感づかれないよう言葉を濁した。

『ひなたのこと?』

「当たり前だろ」

受話器の向こうで九ヶ島が笑った。

『悪ィけど、俺まだひなたに別れるって言ってねえから』

「はあ!?」

ひなたが目の前で俺を心配そうに見ていることも忘れて、怒鳴った。

「テメェそれどういうことだよ! 昨日約束しただろ!」

『まあそう怒鳴るな、約束はちゃんと守る』

やけにあっさり言い放つ九ヶ島に俺は眉をひそめた。何かあると、俺には嫌でもわかる。

『その前に…圭人、お前今日の放課後ちょっと来い』

「は? どこにだよ」

『昨日俺たちが愛し合った場所に決まってんだろー』

九ヶ島の言葉に俺は思わずもどしそうになった。実のところ俺は昨日の奴との情事をあまり覚えていなかった。記憶に靄がかけられている。自己防衛なのかなんなのか、俺は奴とのことを無意識のうちに消そうとしていたのだ。だがこうして奴と会話することで、記憶が鮮明になっていきそうで、怖かった。

「誰が行くか」

『来ないんなら、…それ相応の覚悟しとけよ?』

俺の返事は待たず、携帯を切る九ヶ島。俺は痛みを感じるほど強く唇を噛んだ。
また脅しか。

俺はしばらく動けなかった。

「圭ちゃん? 誰から?」

ひなたはいつもと違う様子の俺を問い詰めた。ごまかそうを口を開けた俺だが、再び携帯が鳴り言葉を飲み込む。今度はメールだ。俺はひなたへの言い訳を考える時間かせぎのためにそのメールを開いた。知らないアドレスからで、タイトル、本文共になし。あるのは付属データの画像だけ。


「───っ!」


それは携帯のカメラで撮られた俺だった。昨日の全裸で意識を失った俺の写真。俺は顔が真っ青になっていくのがわかった。

「圭ちゃん?」

顔色の変わった俺を心配するひなた。俺と同じくらい動揺している。

「どうしたの? だいじょう…」

「ひなた」

俺は慌てて携帯電話を閉じてひなたの言葉をさえぎった。

「お前今日、1人で帰れ」

「え!? なんで?」

俺は答えられず黙って目をふせた。

「僕がなにか嫌な事したんなら謝るよ。だからそんなこと…」

「違う、そうじゃない」

俺は首を振った。

「ちょっと用事があるんだ。だから、先帰っててくれ」

「…………ほんとに?」

ひなたは納得していない顔だ。それでも俺はしらを切り通すしかなかった。

「ああ」

この話はここまでだ、と言わんばかりに俺は席につく。ひなたの疑いの眼差しに気づかないふりをして、俺は右手で携帯をキツく握りしめていた。

あの写真はただの嫌がらせに送られてきたのではない。おそらく逆らえば写真をばらまくぞという奴の脅しだろう。九ヶ島のいうことをきかなければ、ひなただけじゃない。俺もどうなるかわからないのだ。

俺は制御できない怒りと憎しみを抑えるため左手の拳をギュッと握る。手のひらに痛みを感じ、血がでたことがわかった。


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あきゅろす。
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