未完成の恋
003
「嘘だろ……」
俺がすべてを話し終えると、颯太先輩は顔を真っ青にして頭を抱え込んだ。
どうやら信じてもらえたようだ。
「成瀬が……そんな……」
先輩はかなり取り乱している。やはり九ヶ島のそんな一面を、颯太先輩は知り尽くしてはいなかったのだろう。先輩の目つきが変わった。
「あの野郎…、ぶん殴ってやる!」
勢いよく立ち上がった先輩のシャツを俺は慌てて掴んだ。
「待って下さい先輩!」
先輩はキッと俺を見下ろした。
「なんで止めんだよ! 圭人だって成瀬のこと許せないだろ!?」
俺は昨日の九ヶ島の勝ち誇った笑みを思い出した。それとともに奴に強要された行為も。あんなことされて、許せるはずがない。でも、
「……もういいんです。終わったこと、ですから」
今から九ヶ島を殴りに行って約束を反故にされても困る。あれですべて解決したんだ。そう考えればすべて──
「…………圭人」
先輩は俺の考えを読んだようで、九ヶ島を殴りにいくのをやめその場に座り込んだ。そして俺の名前を小さくもう一度呼んだ。
「圭人」
颯太先輩は手を伸ばしそのまま俺を 優しく抱きしめた。
「先輩……?」
颯太先輩の行動に少し驚いて彼の顔を見ようとするが、先輩はそれを許さない。それどころかさらにキツく抱きしめてくる。
「ごめんな」
先輩が謝る理由がわからなくて、俺は顔をしかめた。
「お前にそんなことさせちまって、ホントにごめん。……俺が成瀬に代わって謝る」
先輩にそう言われて、俺ははっとした。
九ヶ島は颯太先輩の友人なのだ。それも、ただの友達なんかじゃない。かなり深い友情で結ばれた親友だ。そうでなければこんな言葉がでてくるはずがない。こんなことになっても先輩達の友情が壊れることはないのだろう。その事実に少し驚きはしたもののあまり怒りは感じなかった。俺がひなたを想うように、先輩は九ヶ島を想っているだけのことなのだから。
「先輩が、謝る必要はないです」
俺はそのまま颯太先輩に身を預けた。
……怒りは感じないが、疑問は感じる。九ヶ島のどこに、先輩にそこまでさせる要素があるのだろうか。俺にとって、あの男はただの最低最悪のヤローだ。
「颯太先輩は、優しいんですね」
俺はあらゆる意味を込めて、そう言った。先輩はその言葉には応えず、代わりに俺の体にまわした腕にさらに力を込めた。
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