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未完成の恋
002


昨日、俺は九ヶ島に抱かれた。いとも簡単にあっさりと、だ。
細かいことは覚えていない。すべてが初めての感覚だったのだ。その時はただただ苦しくて、悔しかった。
俺はいつの間にか意識を失っていて、目が覚めた時には日が傾きかけていた。あれだけ乱暴に脱がされた制服をちゃんと着せられて、情事の後もなかった。

残ったのは俺の頬につたった涙の筋と、ひなたへの罪悪感だった。











「圭人っ、お前探したんだぞ!」

昼休み、1人誰もいない屋上でパンをかじっていた俺の目の前に、弁当を持った颯太先輩が現れた。

「なんでこんなとこにいるんだよ」

先輩は怒りというよりは不思議に思う気持ちが勝っているらしく、怪訝な表情のまま俺の隣に座り込む。この様子だと、やはり颯太先輩は昨日の事件を知らないようだ。

「別に、ただの気分です」

先輩はどこか暗い俺に気づいたのか一瞬心配そうな表情を作る。だがすぐにいつもの明るい笑顔に戻った。

「成瀬は今日も、天谷クンとランチデートだってな」

“九ヶ島”という名を聞いただけで全身に鳥肌がたったが、俺は平静を装っていた。
今日九ヶ島がひなたを誘ったのは、別れを告げるためだ。わかっていても、奴と2人きりになどさせるべきではなかったと後悔していた。

「アイツが2日連続で誰かと過ごすなんて……、もしかしたら成瀬は天谷君に本気なのかもなぁ」

九ヶ島の性格を知り尽くしている颯太先輩が本気で言っているとは思えなかった。もしかしたらという期待を込めているのか、……いや、それともただ単に俺を励まそうとしただけか?

「それはないですよ」

気づくと声に出していた。一度飛び出してしまった言葉はもう止まらない。俺は先輩の怪訝な表情にもかまわず口を開いた。

「九ヶ島が本気で誰かを好きになることなんて、ないです」

颯太先輩はたっぷり10秒は無表情の俺を見ていた。それから恐る恐るといった風に口を開いた。

「圭人、お前何かあったのか?」

俺は心の中で笑顔をつくる練習をしてから答えた。

「別に、なにも」

うまく言えた。そう思ったのに、颯太先輩は朝のひなたと同じ顔をした。

「嘘つけ」

先輩は持っていた弁当を膝元に置き、俺目を覗き込もうとする。

「お前嘘ヘタすぎ。なにかあるんだろ、正直に言えよ」

「…………」

いま、言うか? 先輩に。
確かにひなた以外に相談出来る人といえば颯太先輩を置いて他にいないだろう。しかしそれと同時に先輩は九ヶ島の友達でもある。ヤツに強姦されたと言ったとして果たして信じてもらえるだろうか? 俺が作った被害妄想だと思われるのがオチじゃないのか?

試しに俺を変人扱いする先輩を想像してみた。


「………出来ないな」

「え?」

先輩が顔をしかめていたが、俺はかまわず考えることを続けた。

颯太先輩が俺を蔑んだことなど、これまで一度だってない。昔、顔見知りの不良にからまれた時だって俺がケンカを売ったのではないと、無条件で信じてくれた。先輩はつねに俺の味方だった。
もしかしたら、先輩になら……

「圭人の悩みって、やっぱり成瀬が関係あるのか?」

「えっ……」

ひなたにだけでなく先輩にもバレてしまった。俺ってそんなにわかりやすいのだろうか。
だがこれで颯太先輩に話す決意ができた。これから九ヶ島の横にいる颯太先輩に話しかける勇気がない俺には、必要な決意だ。

「先輩、話があります」

この鋭く痛む傷、ヤツの勝ち誇った笑み。
それを消し去るために、俺は一体どうすればいい。


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あきゅろす。
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