未完成の恋
告白と依存
ひどく泣いた日の朝は、目が赤く腫れる。そんな簡単なことを、俺は今日までずっと忘れていた。
まるで俺の心を表したような、どんよりとした空。
痛みを感じることも、いつの間にか忘れていたようだ。こんな痛み、今までの怪我に比べたら筋肉痛みたいなもの。それなのに、どうしてこんなに苦しいのか。
「圭ちゃん。やっぱり今日、変」
先ほどからずっと俺のことを勘ぐっていたひなたが、突然歩くのをやめた。
「変じゃねえよ」
俺もひなたとほぼ同時に止まった。
「……本当に?」
じとっとしたひなたの視線から、俺は目を背けた。
「あぁ、だから早く歩け。遅刻するぞ」
わざと明るい声で返すと、ひなたは笑顔で再び歩き出した。
腰の痛みを除けば、完璧に隠せていたはずなのに。…ひなたに隠し事なんてそうそうしないから、ボロがでたのかもしれない。
「空、曇ってるね。……梅雨かな」
上を向きながら誰にともなく呟くひなた。俺も見上げようとしたが腰に痛みが走って、うまくいかなかった。
「もしかして、それで機嫌悪かった? 圭ちゃん、雨好きじゃないもんね」
無言のままの俺は、いつしか表情が堅くなっていたみようで、ひなたはもちろんそれに気づいた。
「圭ちゃん、やっぱり何かあったんだ」
ひなたが歩きながら俺の顔を覗きこむ。
「だから、何もねえって」
「……嘘」
ひなたの目を見れば、すべて見透かされてしまいそうで、怖い。
「圭ちゃん、今日おかしいもん。口の調子も微妙に変わってるし……なんか、昔に戻ったみたい」
俺は乾いた笑みがこぼれるのを感じた。
昔? 昔っていつのことだ。
「………やっぱり、九ヶ島先輩と関係ある?」
「関係ねえよ!」
いきなり大声を出した俺にひなたは驚いて固まってしまった。俺に怒鳴られるなんて思ってもみなかったのだろう。
「……ごめん、ひなた…」
慌てて謝る俺の顔をひなたは不安げにみつめ、自分の手を俺の手に重ねた。
「僕には言えないことなの?」
ひなたに後ろめたいことなんてない。今まではずっとそうだった。
だが俺はゆっくり、ひなたの手を振り払った。
「大丈夫……別になんにもねえから」
本当のことを話せるはずもなく、俺は下手な嘘をついた。それがコイツに通じるはずがない。
「僕に言わないのは勝手だけど、あんまり1人でため込むのはよくないよ」
ひなたは俺の心を察したようだった。決して話す気はないのだと。
「誰かに相談したら、楽になるかもしれないしね」
「………あぁ」
俺はそう答えたが、本当にそう思った訳じゃない。
こんなこと、いったい誰に相談できる?
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