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未完成の恋
隠された本音


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「本当に、申し訳ありませんでした」

隣で、俺のちっとも好きではない母親が、バカみたいに謝っている。俺はといえば、校長室の豪華な椅子に股を広げて深く座っていた。

「木月君は前々から、問題をおこしています。我々も今までは大目に見ていましたが…、今回ばかりは」

俺の目の前で、今まで話したこともない校長が険しい表情をしていた。ヒゲを蓄えた校長の隣には、存在すら知らなかった教頭が無表情で座っている。その後ろには冷や汗をかいた学年主任が唇を噛み締めながら立っていた。

「圭人には私からよく言って聞かせます。ですから、どうか穏便に……」

母親は必死だったが、俺のためじゃないことはわかっている。自分のためだ。

「ですが担任を殴ったというのは……」

校長の口調には俺に対する恐れと呆れが混ざっていた。

どうせこいつら全員、俺をさっさと厄介ばらいしたいんだ。

「圭人、あなたも謝りなさい」

母親を無視して、俺は高そうな棚の上にある置物を視界に入れていた。
木彫りの熊を見ていたかったわけじゃない。コイツらを見たくなかっただけだ。

「まぁお母さん。そう頭ごなしに叱らないで。木月君にも何か理由があったのかもしれませんよ」

学年主任が俺を見ながら優しげにそう言った。俺は奴を見なかった。

「木月、どうして谷中先生を殴ったんだ?」

学年主任の誠意のありそうな言い方に、俺はふいに答えてやる気になった。

学年主任は俺が目をあわせたことに少し驚いていたが、目をそらそうとはしなかった。


「ウザかったから」


俺の答えに学年主任は言葉をなくし、校長は息をのみ、教頭はうんざりだとでも言うように息を吐いていた。

「圭人! そんな理由で先生を殴ってもいいと思ってるの?」

母親のうっとうしい声。

思ってるよ。悪ィか。
目障りなんだよ、アンタも。
アンタを殴らないのは、女だから。それ以上の理由はない。

「この話は、また後日にしましょう。谷中先生の話も聞きたいですし」

半ば逃げるように、校長は無理やり話を打ち切った。

校長が、俺と目をあわせることはなかった。


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その日の昼休み。
俺は初めて1人で飯を食っていた。飯といっても購買で買ったおにぎりだったが。
俺の説得で、ひなたはやっと九ヶ島のところへ向かった。九ヶ島の誘いを無碍にしようとするくらい、俺はひなたに好かれている。そう思うとおもわず顔がほころんだ。

まわりの奴らに見られる前に笑顔をひっこめ、窓の外を見た。空には入道雲が煙のように広がっている。俺はそれを何の感情もなしにただ眺めていた。

クラスの何人かに一緒に食べないかと誘われたが、やんわり断っておいた。気持ちはありがたかったが、俺はひなた以外となれ合う気はない。昼食を共にするぐらいでなんだ、と普通の奴なら考えるかもしれないが、俺は……

「けーいと」


俺の思考が突然中断された。この学校で俺に声をかける人間は限られている。

「颯太先輩!」

いきなり現れた先輩は、ビニールの袋に入ったパン片手に、ひなたの所定の席に座った。


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あきゅろす。
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