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放課後の屋上で
007



みんなの会話が、まるで雑音のようにおれの耳を通り過ぎた。

「高宮ってあの!?」

「死んじゃったって、何で?」

松田のまわりが騒ぎ始め、他のクラスメートの注目も集まっていた。

「確か、病気だったと思う」

「嘘っ、病気?」

「それ本当なわけ? ただの噂じゃねえの」

みな口々に言いたいことを好きなだけ話していた。

新藤が眉をひそめて、おれに顔を近づけた。

「高宮が死んだって、泉水」

おれは、なにも言えなかった。



「泉水?」

おれの異変に気づいた新藤が心配そうに声をかけてきた。

「泉水、お前聞いてんのか?」

新藤に肩をたたかれ、おれはやっと息を吸った。

再びまわりの声が耳に入ってくる。


「ってか松田、それ誰から聞いたの?」

「四組の中島」

「何でそいつがそんなこと知ってんだよ、うさんくせえ」





そうだ、まだ決まったわけじゃない。

おれが、自分の目で、耳で、確かめるまでは。



おれは新藤にろくな説明もしないまま、クラスを飛び出した。
おそらく、新藤以外誰も気づかなかっただろう。みんな、それどころではなかったから。





松田が言っていた四組の中島は、理由も訊かず、見ず知らずのおれに誰から訊いた噂なのかおしえてくれた。
おれのただならぬ雰囲気を察してくれたのだろう。







「森田って奴、どこ」

おれは息せききって、八組のドア口にいた男子生徒に尋ねた。

「森田? ああちょっと待って。森田ぁー!」




出てきた奴は、何度か目にしたことがある、ガタイのいい男だった。確かサッカー部だ。そいつは嫌悪感まるだしで、荒い呼吸のおれを見ていた。

「なに?」

おれは呼吸をできるだけととのえてから、話しだした。

「訊きたいことが、あるんだ」

森田はあからさまに迷惑だ、という顔をした。

「ってか、お前だれ」

「あ、ごめん。おれ、二組の逢坂泉水」


おれが名乗ったとたん、目の前の男は、表情がガラリと変わった。

「逢坂…いずみ?」


「そうだけど」

森田は顔を輝かせ、日焼けした真っ黒の指でおれを指した。

「そうか! いずみって名前か!」

「え?」

ワケがわからないおれを残して、森田は教室に凄い速さで戻ってしまった。だがおれがどうしようかと思う間もなく、おれの目の前に再び現れた。

「これ」

彼はおれに真っ白な封筒に入った手紙を突き出した。

「なに?」

「高宮からの、手紙」



おれのもともと激しく動いていた心臓が、さらに強く脈打った。

「何で、これ…」

うまく舌がまわらなかった。

「おふくろから預かった。うち、高宮んとこと親同士が仲良いんだよ。小中一緒だから」

おれは震える手で手紙を受け取った。森田は、申し訳なさそうに顔の前で手を合わせた。

「ごめん、遅くなって。『この手紙を、いずみって子に渡してあげて』って言われて、てっきり名字かと…」

そう言って頭をかく森田。おれたちのそばにいた生徒達のほとんどが、奇妙な組み合わせのおれたちを横目で見ていた。

「しかも勝手に女子だと思ってて…、あー、そりゃ見つかるわけないよなー」

どうやらおれを探していてくれたらしい。
おれは項垂れる込む森田の肩に、手を乗せた。


「噂で、高宮が死んだって訊いた。本当なのか」

おれの問いに、森田が顔を上げた。


「そうか…、お前は知らないのか」


森田は、ゆっくり立ち上がった。




「お前にはたぶん、知る権利があるんだろうな」











そうだ。

おれには高宮のことを、知る権利がある。


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