放課後の屋上で 006 月曜日。 高宮の席には、誰も座っていなかった。 いつもはおれが登校する時間には、自分の席に座っているのに。 「高宮、どうしたんだろう」 おれの言葉に、新藤は高宮の席に目を向ける。 「んー? あ、本当だ、いないや」 欠席なんてめずらしー、と新藤が呟いた。彼はその後もなにか話していたが、おれはまるで聞いていなかった。 嫌な予感がしたどころではない。 息がつまり、このまま不安に押しつぶされて死んでもおかしくないと思った。 どうしたんだよ、秀一。 高宮の突然の転校は、朝のホームルームで担任の口から伝えられた。 彼の急な転校にみな口々に騒ぎ始めたが、もともと友人のいなかった男だ。動揺はすれど、みんなそこまで驚いてはいなかった。 おそらく、おれが一番驚愕していただろう。 しかし、おれは安心もしていた。おれが恐れていたことにはならなかったからだ。 でも、どうして言ってくれなかったんだ。 まさかおれがフったから転校したんじゃないだろうな。もしくは、転校するからおれに告白したか。 たぶん、後者だろう。 突然転校なんて腹もたったが、しょうがないと無理やり自分を納得させた。 彼奴を愛せなかったおれに、彼奴がこのことを伝える義務はないんだと。 ごめんな、高宮。 あれから、およそ一カ月。 まるで最初からいなかったかのように「高宮秀一」は、だれの話題にのぼることもなかった。 みんな、忘れてしまっていた。 おれは高宮の住所も連絡先も知らなかったが、あえて調べようとはしなかった。 高宮がおれにおしえなかったのは、高宮なりの理由があったからだと思ったからだ。 もちろん、おれは彼の声も、彼の体温も、はっきりと覚えていたが、彼のことを話すことはなかった。 高宮のことが、ただの“思い出”になるのだけは嫌だった。 それは、いつもと何ら変わりない日の、昼休みのことだった。 嫌な予感も、不安も、なにも感じなかった。 クラスのムードメーカーである松田の話し声が、偶然聞こえただけ。 「なあなあ、さっき聞いたんだけどさぁ」 いつもは明るい松田だが、この時は声のトーンが落ちていた。彼の不可思議な様子におれは違和感をおぼえ、いつの間にか耳をそばだてていた。 「高宮が、死んじゃったんだって」 その瞬間、おれの呼吸は止まり、まばたきも出来なくなった。 おれの時間が、止まった。 [*前へ][次へ#] [戻る] |