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放課後の屋上で
005


金曜日。
天気は快晴で、遠くの建物や山がきれいに見渡せた。


「高宮」


おれが高宮に呼びかけると、彼は座ったままゆっくり振り返った。

おれは高宮の隣に腰をおろし、彼の顔をまじまじと見つめた。

「来てくれないかと思ってた」

高宮は、いつもの笑みを浮かべながら俺を見つめかえした。

「来るに決まってるだろ」

本当のことを言うと、今日が最後の日じゃなければ、来なかったかもしれない。
高宮と話すのは楽しいが、これ以上彼と一緒にいたら自分が自分じゃなくなるような気がした。


今日がおれたちのタイムリミット。

おれは今日、答えをださなければならない。



高宮に言おう。
ちゃんと、正直に、自分の気持ちを。


おれは―ー‐…




「高宮、おれ…」

だが高宮はおれの心を見透かしたような目で、おれの言葉をさえぎった。


「お願いがある」


高宮はおれの手をそっと握った。

「なに?」

繋ぎあった手から、高宮の熱が伝わってきた。


「逢坂の俺への気持ちを、手紙に書いて欲しい」





気持ちを伝えること。それを文字にするということは、その想いがずっと形として残るということだ。
なぜ高宮がそうしたがったのか、この時のおれには当然わからなかった。


「わかった」

おれが頷くと、高宮は優しい顔のまま、おれの手をさらに強く握った。高宮の黒い髪が、風で揺れていた。

「今日中に書いて、俺の靴箱にいれてくれ」

高宮はそう言って、絡みあっていた指を、そっとほどいた。

「高宮っ…」


高宮の熱が、消えた。
おれの心臓の音が、ドクドクと聞こえる。
高宮はゆっくり立ち上がり、階段へと続くドアに向かった。

「秀一っ!」




どこ行くんだよ、お前。
今日で最後なのに。





高宮はおれの呼びかけに立ち止まり、ゆっくり振り向いた。

こんなにも胸騒ぎがして、こんなにも不安で押しつぶされそうになっているのは、どうして。



「また、一緒に話そうな!」



おれの言葉に高宮はにっと笑い、おれに手を振った。おれが初めてみる、彼の無邪気な笑顔だった。



「また逢おう、泉水」


おれの名前を初めて呼んだその声は、おれの耳に心地よく響いた。一気に安心感に浸る自分がいる。

そうして高宮は、おれといた屋上を後にした。
高宮は、一度も振り返らなかった。











後悔はしない。
おれの気持ちは固まっている。

何度、「好きだ」って言われたって、おれは高宮を愛せない。

男同士だからとか、もうそんな理由じゃない。
「高宮秀一」という人間を愛すること、それが出来ないのはおれが「愛情」とはまったく違う感情に縛られていたからだ。
今まで築いてきた「逢坂泉水」という人間を、おれは捨てられなかった。

今思えば、単なる「意地」だったのかもしれない。
それでも、その時のおれには、じゅうぶんだった。

おれはカバンから取り出したノートの最後のページをちぎり、ペンケースに入っていたボールペンで高宮へのありのままの気持ちを綴った。





秀一、おれはお前とは付き合えない。
お前をそんな風にはどうしても見れないんだ。

でも、おれは秀一が好きだ。お前とこれからも一緒にいたいと思ってる。



おれは、高宮秀一の
「信頼できる友達」
になりたいんだ。





おれは満足だった。短く簡潔でもじゅうぶん、おれの気持ちは伝わるだろう。

これでいい。
おれは、間違っていない。



高宮、おれはお前が好きだ。
大好きなお前に、月曜日になれば、また会える。


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