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Zill O'll infinite2
断章〜Nightmare
繰り返される悪夢。
これは現実ではない。ただの幻。ただの悪い夢。
誰かの見せる残酷な幻想。趣味が悪い。今すぐ斬り捨ててやりたい。

指先でその頬に、触れる。
ひやりと凍てついた感触。まるで氷を思わせる。幻のくせに生々しい。
さりとて馬鹿げた茶番だと一笑に付す事も出来ない。出来る筈も無い。目の前に広がる血溜まり。その海に転がる少女の骸。かの娘の生前の名は。



「――っ!」



慟哭と共に、少女の名を、叫ぶ。
亡骸を掻き抱き何度も少女の名を呼んだ。だけど彼女は応えない。もう二度と呼び声に応えることはない。
誰が。何故。こんな仕打ちを。どうして。彼女が。何故――!



「貴族の名を騙った大罪人。その命で贖ってもらった」



響く嘲笑。女の冷徹な声が耳朶を打つ。
最初に視界に飛び込んだのは、目の覚めるような鮮やかな、赤。
身に纏った緋色のドレス。まるで、鮮血を、浴びたかのような、鮮やかな、赤。



「私が憎いか。そなたの愛する者を奪った私が、憎いか?」



憎い。憎い憎い憎い。憎悪という言葉さえ生ぬるい。
現存し得る全ての呪詛の言葉を並べても尚足りない。少女を殺めたあの女。八つ裂きにしても足りない!



『殺しなさい。あの女を殺しなさい』
『でないと次は君が殺られる』
『全てを奪われる前に、殺しなさい!』



もう何も迷うことは無かった。
獲物を手に取り駆け出す。女の心臓に真っ直ぐ剣を突き立てる。それでも尚女は嗤っていた。狂ったように嗤いながら事切れた。呪詛の言葉を最期に残して。



「――の居ないこの世界に、果たしてそなたの居場所はあるのか?」
「――はそなたの光。だから奪ってやった。そなたに絶望を与える為に」
「苛まれながら生きるが良い。一足先に地獄で待っているぞ」



絶望。そうだ。少女の居ないこの世界に何を見出せば良い。
権力を手に入れたって同じ。傍に彼女が居なければ何の意味も無い。伽藍の心。虚無。空虚。全てがこの身を苛む。ただ彼女が居ないというだけで!





そして、唐突に悪夢は終わりを告げる。



目を開けるとそこは見慣れた自分の居室。
いつの間にか眠っていたらしい。連日の疲れが一気に押し寄せたようだ。安堵の溜息を吐く。
朦朧とする意識。全身が汗だらけなのが分かった。あの悪夢の所為だ。毎晩夢に見る地獄のような光景。
勿論現実ではない。だが現実にもなり得る。だからその前に。



『そうそう。だから殺られる前に殺っちゃわないと』



どこからか聞こえてくる声。聞き覚えがある。誰だったか思い出せない。でもそれは些細な事。
幻聴か。それとも悪魔の囁きか。どちらだって構わない。



『彼女を、喪いたくないのでしょう?』



別の声が重なる。女の声だ。どこかで聞いたような。でもそれも些細な事。



『王妃は、きっと――を殺すよ。さっきの夢みたいに』
『――様は、王妃にとって目障りな存在だから』
『先手必勝。殺られる前に殺れ、ってね!』
『愛する者を繋ぎ止めるため。王妃を殺すのよ』
『そうだ、殺しちゃえばいいんだ』
『殺しなさい』
『殺セ!』
『殺セ!!』
『殺セ!!!』



言われずとも分かっている。
あの女を……王妃を、殺す。あの女には何も渡さない。地位も、権力も、名誉も。
そして、彼女の命も。絶対に、奪わせたりするものか。



「――……」



少女の名を小さく囁いた。まるで神聖な呪文を唱えるように。
彼女の眩しい笑顔。思い浮かべるだけで鼓動が高鳴る。
あの愛しい笑顔を守る為なら、この手を汚すことだって、厭いはしない。



『全てがシナリオ通りだね。あとは、その時が来るのを待つだけだ』
『この王宮を、鮮血の赤に塗り替えてあげるわ……』



彼らの呟く声は、しかし誰の耳にも届くことは無く。
全ての駒は揃った。無限の魂さえも巻き込んで、運命の歯車は廻る、廻る――

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