君が泣くから、僕も泣くんだ(アダム×メイファ) ああ、なんでやろな。 ◇◇◇ きれいな夕日だと思った。 パリの街が一望出来るこの場所は、俺のお気に入りの場所だった。 始祖として覚醒してから、神器の修練を兼ねて空中散歩をしていた時に偶然発見した場所。 誰にも気付かれない、誰にも知られていないこの場所は、俺だけの宝物のようで妙に嬉しかった。 「メイファ」 だけど、今この場所に俺以外に人がいる。 小さな小さな体。でも、その身にのしかかるのはその体では到底抱えきれないような苦痛と悲しみだ。 健気な少女だと思った。その身に受けた傷を晒す事なく、いつも明るく笑っていた記憶しかない。 「なぁ…なんで泣くん?」 でも、そんな少女も今は泣いている。 しゃくり上げる声を必死に抑え、ぎゅっと目を瞑ってただただ涙を流していた。頬を伝うその滴が夕日に照らされ、場違いにも、ああきれいだな、なんて思ってしまう。 「だって……っアダムが泣かないから……!」 必死に絞り出したであろう声は、そのまままた涙に呑まれて消えていってしまった。 俺が泣かないから。 なんで? だって、俺は幸せなんやで。 メイファに会えて、一緒に話して、一緒に遊んで、楽しい時間を過ごせた。 それは、俺がこうして今「アダム」として生きているから出来る事なんや。 あの時メイファと出会ったから、俺は「アダム」として生きる意味を見出せた。 俺のじゃないこの名前も、俺にある筈のないこの力も、あの瞬間から確かに「俺」としてのものになった。 「俺は…幸せやで」 この思いは、確かに真実だ。 泣く必要なんか、どこにもないのに。 (ああ) なのに、どうして今俺の視界は滲んでいるのだろう。 (俺は………) 俺の頬を伝っているこの熱いものは一体なんなのだろうか。 (俺はやっぱり悲しかったのか) 君が泣くから、僕も泣くんだ 「民族浄化」に対して、アダムはメイファに出会うきっかけを与えてくれた事には感謝しているのだけれど、それと同時やっぱり自分の未来を捻じ曲げられた事が許せない。 そんな同居する相反する心境が書きたかったのだが、補足説明がいる時点で終わっている。 |