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アレルヤ(ハレルヤ)で20のお題
18/寝顔/wecko
キュリオスの搭乗訓練を終えて、へとへとになりながらデッキを進む。
訓練とはいえ、これしきのことでフラフラしてたらだめだ。
こんなの見られたら、またティエリアに怒られるかな。
いつも厳しい顔をしている彼の顔を思い出して苦笑を浮かべた。
あんなに気を詰めていて大丈夫なんだろうか。
そんなことを心配しようものなら、また怒られるんだろうけど。

「アレルヤ・ハプティズム…何をにやついている」

全く気配に気付かなかった。
背後の存在に威圧されて、じりじりとゆっくり振り向く。
その先には案の定、機嫌の悪いティエリアがいた。

「何も、にやけてないよ」
「…大体その疲れた顔はなんだ、訓練ごときでそれほどまでに疲労するのか」

責めるような物言いに乾いた笑いしか浮かべられない。
僕はそんなに嫌いじゃないんだけど、あっちは僕を嫌ってるのかな。
ティエリアと話していると、そんなネガティブな思考しか生まれない。
いたたまれなくなって目を逸らせば、やけに鬱血した指先が目に入った。

「あれ、ティエリア…それ…」

気になって指を差すと、ティエリアの目がわずかに見開かれた。
どうやら気付いてなかったみたいだ。
失敗を見られたくなかったのか、指はすぐに隠されてしまった。

「ティエリア、それ冷やさないと…」
「構わない」
「湿布なら僕の部屋にあるから、」
「何でもないと言っているだろう」

伸ばした腕は簡単に振り払われてしまった。
いくら僕でも、そこまでされたらさすがに頭に来る。
そのまま去って行こうとするティエリアの腕を掴んで、無言で部屋へと向かう。

「…離せ」
「そういう怪我はきちんと手当てしないと後で大変なんだから」
「だから必要ないと、」
「だめ」

僕がこんなに頑固なのが珍しいのか、それ以上ティエリアは何も言わなくなった。
黙ってついて来てくれてるんだから、嫌われてるわけじゃないんだろう。
それでもやはり気まずいのには変わりない。
無言のままドアを開け、無言のまま湿布を貼ってやる。
その間もずっとティエリアが僕を見ていたから、なんだか緊張して上手く出来なかった。

「はい」
「…ああ」
「あとどこか痛いとこない?大丈夫?」

極力笑顔になるように努めて声をかける。
それを無視するかのようにじっと湿布の貼られた指を眺めていたかと思うと、おもむろに立たされた。

「、え」
「頭が痛い」
「嘘、大丈夫!?もしあれだったらベッドに…」
「いい」
「いいってそんな、」

頭が痛い、というわりには強い力で背中をぐいぐい押されて、無理矢理ソファに座らせられた。
ソファで寝るくらいならベッドで寝ればいいのに、と思った矢先、慣れない重みが太ももに来る。

「…え」

見なくたって分かる。
ティエリアの頭が僕の太ももにある、所謂これは膝枕というやつだ。
男の、しかも僕みたいにガタイのいい奴の太ももなんか固くて居心地がいいはずないのに。
恥ずかしいとか有り得ないとか何でとか、ごちゃごちゃした感情が渦巻く。

「ティ…ティエリア、ちゃんとベッドで寝よう?」
「構わない」
「だってほら…余計頭痛くなっちゃうよ?」
「そんなことはない」

人肌が恋しいのか、珍しく甘えたいのか。
いつもの彼からは想像出来ない姿に少しだけびっくりした。
下手に動いて機嫌を悪くさせてもあれだし、と微動だにせずにいると、次第にティエリアも動かなくなった。

「…ティエリア?」
「……」
「寝ちゃった、かな」

かすかに肩が上下している。
ティエリアの寝顔なんてそうそう見れるものじゃない。
バレたら後で怒られるかな。
僕のくせっ毛とは程遠い紫色の髪を撫でながら、そっと顔を覗きこんだ。
綺麗な寝顔に顔が赤くなる、胸が高鳴る。

「……あれ、」

おかしい、おかしい!
太もものじんじんとした痛みなんか気にならないほど顔が熱い。
動揺して少し動いたのがお気に召さなかったのか、ティエリアが唸った。
起こしちゃっかもしれない。
ひやひやしながらまた顔を覗けば、やや眉根を寄せた寝顔があってほっとため息をついた。
相手のいない空間に少し切なくなって、答えるはずのない名前を呼ぶ。

「…ティエリア」
「何だ」
「、!お…起きてたの?」
「さっきお前が動いたからな」
「ごめ……、」

ティエリアの口調から不機嫌さが窺えるようでわたわたしていると、何かが唇に当たる。
この感触は、もしかして。

「俺は今から寝る。しばらく黙っていろ」
「、…」

鬱陶しそうにそう呟くと、ティエリアはまた僕の太ももに頭を乗せた。
ティエリアの気迫に圧されて、一連の動作に突っ込むことすらままならない。
さっきのキスは果たして僕を黙らせるための手段だったのか、意味を伴った行為だったのか。
それともただからかってるだけなのか。
聞こえてきた規則正しいはずの寝息に心乱される。
まさか、ね。
乙女じゃあるまいし、この五月蝿い心音だって気のせいだ。
いつもと違って甘えてくるティエリアが珍しいだけに決まってる。

「…ぶつぶつと五月蝿い、もう一度黙らせてほしいのか」

太ももの方から響く低い声音と内容にびっくりして、思わずティエリアを見てしまった。
髪から覗くその双眸に睨まれて、不謹慎にもまた鼓動が早くなる。
ごめんね、と呟いて壁の時計に目をやる。
公務員のようにきっちり時を刻むそれは、僕の思うようには進んでくれない。
規則正しい針の音と、不規則な僕の心拍数。
ああどうか。
せめてこの胸の高鳴りがおさまるまで、起きないで。








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