夕焼け空に背を向けて 「まだ夕方なのに月が出てる」 いつだったか、ルークが不思議そうに空を見上げて呟いた。 「そりゃ出るさ、月だって夜だけ出るわけじゃない。明け方だってまだ空にいるはずだぜ」 目を落としていた本から視線を上げると、ふぅんと呟いて再度空を見上げている。 ルークはよく空を見ている。最初は自由に飛び回る小鳥を追い掛けて視線を向けるだけだったが、暇になると専らそうして何もない空を見上げている。 その時の表情は無表情でありながら、何かを考えているようでもあった。 「…寂しいだろうな」 しばらく経ってから静かに言った。一瞬何のことか分からなかったが、未だ見つめているものに気付いて言葉を返した。 「どうして?」 「夕方から明け方っていえば、ほとんどの人も動物も家の中にいたり休んでたりして外は静かだろ。でも月はそんな時間しか空に浮いていられない。」 本当に悲しそうに、彼は言った。 考えもしなかったその言葉に、今度は返すことが出来ない。こんな時大人ならどんな風に諭すのだろう。 思案を巡らせていると、ルークが小さく息を漏らした。 「流れ星か…」 目の端であっという間に消えてしまった輝き。けれどそのおかげでやっと笑みを浮かべて、しょぼくれている彼の頭を撫でてやることができた。 「ルーク、良く見てみろよ。空には月だけじゃない、星だってたくさんいるだろ?寂しくなんかないさ。」 そう言うと目を大きくして空を見た後、満面の笑みを浮かべた。 「ほんとだ!ガイ、見て!」 指さす先には一つの光。 にこにこと笑う彼の頭を、俺は返事代わりにもう一度撫でた。 それはまだ心に燻りが残る春の始めの話。 END |