二次小説(うたプリ)
探せハッピーエンド!
その森に一度入ったら、出られない。
なぜなら、必ず道に迷うから。
そんな実話があるその森を、人々は『魔の森』と言う。
「ったく、ここどこだよ……」
来栖翔は、その『魔の森』で絶賛迷子中だった。
理由は、手に持っている地図だ。
「薫のやつ、何が『翔ちゃんならわかるよ!』だよ、ぜんっぜんわかんねえじゃねえか!」
双子の弟・薫に渡されたその地図は、子供の落書きのような地図で、最初はなんとなくわかったものの、奥へ進んで行く内にわからなくなってしまった。
この森を抜けたところに、祖父の家がある。翔はそこにおつかいに行くところだった。
『魔の森』と呼ばれるこの森に入ったら、必ず迷うと言われている。しかし、楽器を作って暮らしている来栖家の人間だけは迷わないらしい。何故かはわからないが。
その証拠に、薫は何度もこの森に入って、傷一つなくちゃんと帰ってくる。
そんな森に、翔は入ってみたかった。
翔は生まれつき身体が弱いため、なかなか外に出してもらえなかったが、15歳になってやっと自由に動くことを許された。
翔は真っ先に祖父の家に行くことを希望した。祖父にも会いたいが、一番の理由はこの『魔の森』に入りたいからだ。来栖家だけ、特別に入れる。その特権を、感じてみたかった。
だから翔は、薫にこの森を出るまでの地図をもらい、祖父へ渡すヴィオラを持ってこの『魔の森』に入った。
……なのに。
「バッチリ迷子になってんじゃねぇかぁぁぁぁあ!!!」
翔は思いっきり叫んだ。
だが、その叫びは夕暮れの空にむなしく吸い込まれていくだけだった。
(俺来栖翔だよな、来栖家の子供だよな!? なんで迷ってんだよ俺! 元から方向音痴なのか? そうだったらこの森に入る前に迷ってるよな。う〜っ、この地図分かりにくいよ薫!!)
翔の腹がぐぅぅと切なく鳴る。そういえば、昼食を食べていなかった。てっきり午前中に着くと思っていたから。
(おなかへった……)
ふらふらと歩く。俺今日死ぬかも、なんて諦めに近いことを考えていると。
「………ん? 何だ? これ」
いつの間にか、目の前に大きな洋館があった。やけに古びているが、幽霊屋敷でもなさそうだ。
(明かりがついてる)
窓から明かりがもれていた。この『魔の森』に人が住んでるなんて、初耳だ。
「今日、泊めてもらおうかな……」
多分、今日中にはこの森から出られない。そんな気がする。泊めてもらうか、せめて道だけでも教えてもらおう。
翔はそう決めて、その洋館の扉をノックした。
「すみませ〜ん、誰かいませんかー!?」
翔は腹から声を出して、さっきの叫び声に負けないくらい大声で叫ぶ。
すると、しばらくして扉がガチャリと開いた。
「はーい、どちらさまですかぁ?」
(でかっ!!?)
扉を開けて姿を現したのは、二十歳前くらいの笑顔が穏やかな男だった。その男の身長に、翔は度肝を抜かれた。
(170……いや、180センチか……?)
「……? どうしたんですか?」
そのでかい人がきょとんとした顔で首を捻る。翔は首をぶんぶんと横に振った。
「何でもないです! あの、この家の人ですか?」
「はい。四ノ宮那月と言います。お名前は?」
なんか偉そうな名前だなーと思いながら、自己紹介をする。
「来栖翔です」
名前を言うと、那月はパアッと日だまりのようにニコッと笑った。
「翔ちゃんですか。可愛いですねぇ」
「可愛い言うなぁっ!!」
その言葉に、翔は反射的に叫んでいた。
はっと我に帰っても、後の祭り。
那月はまたもやきょとんとした顔でこちらを見ている。
急に罪悪感がわいてきて、翔は頭を下げた。
「ご、ごめんなさい」
「ふふっ。別にいいですよ。あっ、敬語もしなくていいです。というか、しないでいただけるとこちらも助かります」
那月はまた柔らかく笑った。その台詞に、翔は戸惑いながらも頷いた。
「で、翔ちゃんは何か用ですか?」
「えーと、迷ったんで……だけど、道を聞きたいなあって」
すると、その質問に慣れているのだろうか。那月はすぐに、ポケットから地図を取り出した。もちろん、翔が持っているのとは全然クオリティが違う地図だ。
「どこに行きたいんですか?」
「カルナリ村」
祖父の家がある村の名を答える。すると、那月がちょっと残念そうな顔をした。
「じゃあ反対方向に来ちゃったんですねぇ。ここは森でカルナリ村から一番遠いところですよ」
「ええっ!?」
地図を見せてもらうと、確かに、この洋館とカルナリ村は森の対極にあった。
(俺、完璧な方向音痴だったのか……!?)
新たな自分の短所を発見してしまい、翔はがっくりと肩を落とした。
「良かったら、泊まりますか?」
そんな翔を見かねたのか、那月は優しい声でそう提案した。翔はその提案に目を見開いて那月を見る。
「い、いいのか?」
「はい。一人くらい大丈夫ですよ〜。ねえ、さっちゃん」
那月が後ろを振り向く。そこには、那月とまったく同じ容姿で、まったく違うオーラを纏った男がいた。
さっちゃんと呼ばれたその男は、翔を一瞥して、鼻を鳴らした。
「ふん。勝手にすればいい」
「彼は僕の弟、四ノ宮砂月です。僕たちは双子なんですよぉ」
やっぱり。翔はそう思った。ここまで容姿が似ているのは双子以外ありえない。自分と薫のように。
「へえ。俺も双子だぜ。弟がいる」
「はっ、どうせ身長は弟に負けてるんだろ、チビ」
「チビじゃねぇっ!!」
弟に負けているのは事実なので否定はしないが、チビという言葉には反発した。
再び叫んで砂月と睨み合う。すると、那月が間に入ってきた。
「ほらほら、二人とも喧嘩しないで。どうぞ、翔ちゃん。僕たちの屋敷へようこそ」
那月が入室を促すように翔の手を優しく引く。
「よ、よろしく」
そう言って、翔は手を引かれるまま中に入った。
背後の扉がキィィィという音を立ててバタンと閉まる。
翔はその扉を振り向くことなく、ただ前を歩く那月と砂月の背中についていく。
……ニヤリと笑い合った双子には気づかずに。
「え、こんなご馳走いいのか?」
目の前のテーブルに広がっているのは、豪華な食事だった。パスタにピッツァ、サラダにグラタンやステーキ、ケーキまであった。
食べていいと言われ、驚いた顔で振り向く翔に、那月は笑顔で頷いた。
「はい。どうぞ召し上がれ」
翔はお腹がすごい空いていたため、すぐさま椅子に座り、いただきますと言ってからグラタンを口に運ぶ。
「お、美味しい!」
そのグラタンは今まで食べたものの中で一番美味しかった。
翔が思わずそう叫ぶと、向かいに座る那月は嬉しそうに笑った。
「ふふっ。今夜はさっちゃんが料理したんですよ」
「えっ!?」
翔は驚いて砂月を見た。那月の隣でステーキを口に運んでいた砂月は、翔を睨む。
「何だよチビ。文句あるのか」
「い、いや、ないけど……」
人は見た目によらない。翔はそんな格言を思い出した。
「でも、すげーなお前、こんな美味い料理作れるなんて!」
翔が尊敬の眼差しで砂月を見ると、彼は目を見開いて何秒かフリーズしてから、顔をふいと背けた。
「……。別に、普通だ普通」
「さっちゃん照れてますぅ」
「照れてねぇよ!」
那月の言葉に砂月が大声で反論する。そのやり取りに、翔はぷっと笑ってしまった。
(……よかった、この洋館を見つけられて)
この双子との出会いに、翔はちょっとだけ感謝した。
☆☆☆
「ここが、翔ちゃんのお部屋です」
「広っ!!?」
今夜泊まるための部屋に案内された翔は、通された部屋の大きさに思わず叫んだ。
その部屋の大きさは、翔と薫の部屋の10倍はあった。部屋の端から端まで全力疾走しても10秒はかかるだろう。
「あ、でも、この屋敷でかいから当然か」
「何一人で納得してるんだか」
「僕の部屋は右、さっちゃんの部屋はその向かいにありますから、何かあったら来てください」
「あ、ありがとう」
「はーっ、疲れたー」
(皆、心配してるかなぁ……)
☆☆☆
翔が眠りについた頃。
那月と砂月は、那月の部屋でそれぞれ好きなことをしていた。那月は料理の本を眺めていて、砂月は小説を読んでいた。
「ねえ、さっちゃん」
料理の本をパタンと閉じた那月が、そう砂月に話しかけた。
砂月は小説から目を離さずに返事をする。
「なんだ」
「僕、案外あの子のこと気に入っちゃったかも」
そう言ってふふっと嬉しそうに笑った那月に、砂月はため息をついて本を閉じた。
「お前はまたそれか。どうせすぐ飽きるくせに」
「わからないよ。今回はずっと飽きないかもしれないじゃない」
那月の穏やかな緑の瞳と、砂月の冷たい緑の瞳が交差する。しばらく見つめあったが、先に目を逸らしたのは砂月だった。
「俺は今回も飽きると断言する」
「酷いなあ」
「今まで何十回もこの問答を繰り返して、結局毎回飽きているお前には言われたくない」
「ふふっ。事実を言われちゃあ、反論はできないね。……いいでしょ?」
「ああ。那月の好きなようにしろよ」
砂月はそう投げやりに言って、再び小説を読み始めた。
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