勉強中


背もたれと肘置き付きの座椅子に座して、膝の上に広げた書物に目を落としている半兵衛の傍らには、何十冊もの本が積まれていた。
全てこの家の書斎にあった物である。
今読んでいるのは日本史の本だ。

「参考になりますか?」

「とてもね。お陰で向こうに戻ってから為すべき事柄が幾つか見つかったよ」

こうして別の世界の別の時間、別の場所にいても、秀吉のために出来ることがある。
秀吉を天下人にするために自分に出来ることがある。
その事実は半兵衛の心を幾らか軽くしてくれた。
焦燥が完全に消え失せたわけではないが、多少なりとも楽になったのは確かだ。

どの道、帰る方法が分からない以上、焦っても仕方がない。
それならば、与えられた時間を少しでも有意義に使うべきだと半兵衛は考えたのだった。

まずはこの世界の事を学ぶ必要がある。

こうして書物に記された事柄を見る限り、この日ノ本は短い間に急激な成長を遂げた事が見てとれる。

半兵衛にとっては全てこれから起こるはずの出来事になるわけだが、時代の変遷を目にするというのは奇妙な体験だった。
勿論、己の世界がこの世界とまったく同じ歴史を辿るとは限らない。
それでもやはり大きな流れで見れば似たものになるのではないだろうかと予想していた。






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