彼女がいる世界2
「大丈夫ですか?」
「ああ」
のぼりきったところで一つ大きく息をついた半兵衛が、天音に微笑みかける。
そうして今上がってきた石段のほうを振り返った彼は、眼下に広がる光景に僅かに目を見張った。
「……これは──」
田畑とその間を縫う畦道だけを見れば、別段おかしな所のない、のどかな田園風景に見える。
が、しかし、半兵衛の知るそれとははっきりと分かる形で違っていた。
見た事もない形状をした民家の数々が点在しているその大きな道は、すべて見慣れない材質の石で固められており、所々奇妙な柱が立っていて、その柱から柱へと黒っぽい縄に似た物が渡されている。
更に驚くべきことには、その田園の向こうに天を突くのではないかと思えるほどの高く巨大な塔の数々が立ち並んでいたのだった。
「……本当に、ここは僕がいた世界ではないんだね」
青空の中をキラリと輝く小さな銀色の光が移動していくのを、眩しそうに瞳を細めて見やりながら、半兵衛が呟く。
見下ろせば、左下方に天音の自宅が見える。
彼女の家で未来の物だというからくりを沢山見ていたし、彼女が嘘をつく人間には見えなかったから、納得していたつもりだった。
しかし、頭では事実だということを分かっていても、どこかで信じきれていない部分があったのかもしれない。
こうして改めて己の目で現実を目にした今、半兵衛は衝撃を受けると同時に奇妙な安堵も感じていた。
やはり彼女は信頼に足る人間だったのだと。
自分の人を見る目は正しかったのだと誇らしくもあった。
そして何よりも、この奇怪な現象を受け入れ、突然現れた男を手厚く看病してた彼女に激しく心を打たれていた。
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