命の限り


「この菌は感染しても必ずしも発症するとは限らない。発症原因として考えられるのは、睡眠不足に栄養不足、体調不良をおしての激しい運動や労働だ」

良蔵は労りと厳しさの混じった医師の眼で半兵衛を見据えて言った。

「食欲がないから、時間が勿体無いからと言って少ししか食事をとらなかったり、睡眠時間を削って執務に打ち込んでいたんじゃないか?」

「…耳が痛いな」

全てに心当たりがあるだけに苦笑するしかない。

やるべきこと、為さねばならないことは山積していた。
元からあまり丈夫な身体ではなかったが、軋む身体に鞭を打って、秀吉の為に働き続けたのだ。

そうして労を惜しまず昼夜問わずに走り回った結果、己の命を縮めることになり、一番望んでいた友の天下統一をこの目で見られないかもしれないというところまで来てしまったのだから、人生とは皮肉なものである。

「参謀と言っても、城に籠りきりというわけにはいかなくてね」

初めは秀吉と半兵衛の二人きりで始めた天下への道だ。
それこそ初めの頃は目の前の敵を斬ることが全てだった。

「軍を成してからも、策を立てるのも、兵達を集めて育てるのも、無論戦に出て戦うのも、全てが僕の仕事だったからね」

「そりゃあ豪気だなあ」

参謀として策を練り采配を振るうだけでなく、自らも愛刀を手に陣頭指揮をとっていたと聞き、老医師は大笑した。
本来ならばとっくに床に伏していてもおかしくない状態だったはずなのに、それこそ気力だけで動いていたのだろう。

「そんな身体で、よくもそれだけ駆けずり回れたもんだ」

「こんな身体だったからこそ、だと思うよ。僕に出来る事は何でもやろうと決めていたからね」

治る見込みのない病だったからこそ、残り少ない命が尽きるその瞬間まで──最期の血の一滴まで、己の全てを友の為に捧げようと決めていた。

命の限り。






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