キッチンご案内1
「小十郎さん、佐助さん、一緒に来て頂けますか」
天音の呼びかけに、名指しされた二人は怪訝そうに彼女を見た。
「今からお茶を淹れるんですが、これからは好きな時に自分達でも淹れて頂いて構いませんし、そうなるとたぶんお二人が一番使う機会が多くなると思うんです。とりあえず厨にある物の説明をさせて下さい」
「そういうことなら…」
「分かった」
何故その二人を指名したのか。
彼女の意図を鋭く察した半兵衛が気遣わしげな眼差しを天音に投げかけてくる。
憂い顔も麗しいなあと思いながら天音は彼に大丈夫ですと微笑んでみせた。
「ここが厨です」
佐助と小十郎をひきつれてキッチンに入った天音は見えやすいように電気をつけた。
「ここにあるものも全てからくりなのか?」
冷蔵庫や炊飯器に目をやりながら小十郎が尋ねる。
天音は頷いて一番近い場所にあった冷蔵庫を開けた。
「これは冷蔵庫。食材を冷やして保管出来るからくりです。食事の支度をする時はここから必要なものを取り出して調理します」
「へえ、氷室みたいなものか。便利だねえ」
中から漏れ出す冷気に佐助が顔を近づけて感心した声を出す。
くんくん、と匂いを嗅いだ彼は「ん?」と首を傾げた。
「もしかして甘味が入ってる?」
「甘味…あ、そうです、おやつや食後に食べる甘い物や果物が入ってるから、その匂いだと思います」
「それさ、後でちょーっと分けて貰ってもいい?うちの旦那、甘味に目がないんだ」
「良いですよ。じゃあ食後にでも声をかけて下さい。食べ方とか教えますから」
「有難う。旦那が喜ぶよ」
佐助と甘味について話していた間、小十郎は一番下の野菜室に見入っていた。
「これは野菜か?」
「そうです。入れる場所によって冷たさがそれぞれ違うので、そこに合った物を入れるようになっているんです。下は野菜、真ん中が氷らせておく物、上がその他の食品を入れる場所になっています。氷も作れるんですよ」
「凄いね、氷まで作れるんだ」
上下を閉め、代わりに冷凍室を開けると、佐助が冷凍室の氷を一つつまんで食べ、ガリガリと小気味良い音を立てて噛み砕いた。
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