神社で


あれだけ酷い発作を起こした直後に移動するのは難しいかもしれないが、このまま屋外にいて身体を冷やすのも良くないはずだ。

「立てますか?」

天音は男の身体を支えながら聞いた。

「辛いと思いますが、もし動けそうなら私がこのまま支えていますから移動しましょう。すぐ近くに私の家があるので、そこまで少しだけ我慢して下さい」

「…ああ、すまない…」

男はほんの数瞬躊躇った様子だったが、天音の提案に従うのが現状では最善だと考えたのだろう、力を振り絞って何とか立ち上がった。

男の状態を考えれば、本来ならばすぐにでも救急車を呼ぶべきなのだろうが、天音の頭にその選択肢は無かった。
どう見ても彼は訳有りだ。

とにかく、この暗く寂しい場所から一刻も早く明るい所へ連れ出さなければならない気がしていた。

剣を鞘に納めた男をしっかりと支え直し、その重みに気を引き締めつつ歩き出す。
男の体調を気遣ってゆっくりと、しかし、可能な限り急いで。

「そこから下に降りる階段になっています。足元に気をつけて下さい」

下へと続く石段が、これほど長く感じられたことはなかった。
男は殆ど意識を失いかけているらしく、ともすれば倒れ込みそうになるその身体を天音は必死に支えて石段を降りていった。

左下方に自宅の明かりが見える。

少し視線をあげれば、星の海のような夜景を遠くに眺められるはずだが、今の天音には、男の身体の重みと体温、耳の近くで聞こえる苦しげな息遣いだけが全てだった。
夜風に吹かれた白銀の髪が柔らかく揺れて天音の頬をくすぐる。

何故そう思ったのかは分からない。
ただ、この人を絶対に死なせてはならないと感じていた。






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