短編
魔王の何でも屋~狐の献身~3
4時間ほど眠り、起きたらいつも通り蔵馬に抱えられていた。敵意がないから抱えられても気付かねーんだよな。おい股間にチンコ当てんなっつのトイレ行け。
そんないつも通りのやり取りをし、通勤ラッシュが落ち着いたくらいの時間に俺たちは家を出た。
新幹線が発着する駅まで電車で移動し、そこで袁耀と待ち合わせた。
人混みの中だが、袁耀の妖気は覚えているのですぐに見付かった。
「あ、まお」
「やめれ」
人間の中で魔王呼びをしようとする袁耀に瞬時に近寄り、デコピンで仕留めた。
「も、もげた? 頭もげたでやんす!?」
しゃがみこんで額を抑える見た目小学生の袁耀。
ちなみに基本的に魔族とばれないよう普段から気配を薄めにしているのだが、さすがに騒ぎすぎて一瞬こちらに人目が集まる。
すぐに気配を完全に消すと、人目は自然と散っていった。
「もげねーよ。お前(人間より)そこそこ頑丈だろ。幽助でいいよ」
「そんな! せめて様くらいつけないと!」
「いらね。いーんだよ、みんなそう呼んでっから」
「これは……日記に書いて一族に伝えねばならないでやんす……! ◯年◯月◯日不肖下級妖怪袁耀、魔王様から名前呼びの許可を得ましたァァァ!」
「うるせーなお前」
もうここまで来ると、敬ってんだか馬鹿にしてんだかわかんなくなってくんな。
「さっさと行くぜ。何番ホームだ?」
「あ、はい、13番ホームでやん」
袁耀が俺の後ろに視線をやってカチっと固まった。
「あ、コイツ蔵馬。一緒に行くことになったんだ」
「蔵馬です。よろしく」
そう挨拶をした蔵馬は、当然銀色の妖狐姿ではない。人間の南野秀一の姿をしていた。
人間の姿をするなら、この姿が一番なりやすいのだそうだ。
もちろん気配を薄くしているので、周囲からの視線はない。
袁耀が、コソッと俺の耳に囁く。
「幽助さんの彼女さんでやん……ヒィ」
言葉の途中で恐怖に慄いた。ピンポイントで圧をかけられてたな。その地獄耳の狐は女に見られるのは嫌いなんだよ。
「見ての通り男だぜ」
親指でクイっと示して仲立ちしてやる。
「あ、じゃあ幽助さんの彼氏さ」
「あ"あ"?」
「ひぃ」
「幽助、そんなに怖がらせてはだめだよ」
蔵馬ににっこりと嗜められた。ご機嫌治ったようで何よりだ俺の機嫌は降下したが。俺の彼氏っつー言葉の響きに鳥肌立つわ。
「オレは時々、幽助の何でも屋を手伝っているんです。今回は少し心当たりがあったので一緒に来ました」
「心当たりでやんすか?」
袁耀が身を乗り出した。
人間の姿をする蔵馬は、中身妖狐だが性格や話し方も人間よりにするらしい。
「ええ。あなたは見たところ、運を司る一族のようだ。
そういった妖怪を捕まえて使役しようとする欲深い妖怪や人間は昔からいました。
でも捕らえられると彼らは力を発揮できないはず。
今回の話では、あなたの親戚はおそらくは存命で、存在すると思われる場所には巨大で強固な結界が張られているとのこと。
長年そこまで守られているということは、捕らえられているのに力が発揮できている状態なのでしょう。
どのような術を使っているのか想像ですが、その通りならオレがお役に立てると思います」
なるほど、蔵馬の領域っぽい話なのか。連れて来なかったら、結局蔵馬を呼び出すところだったな。
ていうか、そうなることを先読みして最初から同行を申し出たのか。
袁耀が縋るような眼差しを蔵馬に向ける。
「蔵馬様」
「蔵馬でいいですよ」
「では蔵馬さん、どうか招幸を助けてほしいでやんす」
「こちらには魔王も付いてますからね。何とかなりますよ」
「ありがとうございやんす……!」
袁耀が目を潤ませて礼をする。
じゃ行くか、と俺たちは新幹線の出るホームへと向かった。
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