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魔王の壁越え

 水音がしていたから近くに川があるのはわかっていた。
 泣きじゃくるガキを放っておくわけにはいかず、俺は仕方なく川に連れて行き、ガキを川に突っ込んだ。丸洗いじゃ。
「ほれ、着物脱げ」
「……ヒクッ……ショタコン?」
「沈めっぞ」
 カルトは素早く着物を脱いだ。そんなややこしい着物をちゃんと自分で脱げるんだからたいしたもんだ。脱げねーっつったら代官脱ぎさせてやるが。お代官様あーれーって帯引っ張って回転させるアレだ。
 脱いだ着物を受け取り、濡れたまま木の枝にかける。
 ここまでやってやりゃもういいだろう。
「家、近くだろ。どうせおめーンちの敷地内だ。そのまま家帰れんだろ」
「野外露出プレイ?」
「誰だ、それ教えたの」
「ひっ み、ミル兄様でしゅ!」
 ミル兄様? どっかで聞いたような。……イルミが言ってたヤツか。たしかミルキ。イルミに無駄知識を教えた死刑野郎か。
「いいか、カルト。その単語は忘れろ。いらねぇ知識だ」
「あい! わしゅれまちた!」
 恐怖で舌が回ってねーし。さっきのクソガキと同一人物だと思うとおもしれーな。
 俺は着ていたシャツを脱ぐと、素っ裸のカルトに着せた。元はクラピカのシャツなんだが、裾も袖もやはりカルトには大きかったよいで、裾はスカート丈だし、袖は手が出ない。
「……汗くさい」
「文句言うなら返せ」
「ごめんなさい。ありがとうございます」
「よし」
 クラピカに借りてから一切洗ってねーしな。まぁ臭いだろう。だが、借りる立場のくせにそりゃ言わせねェ。
「送ってってやるから案内しろよ」
「はい!」
 いい返事だ。キルアに続き、ゾルディック家二人目の調教完了。一番厄介な宇宙人野郎こそ調教してやりてェが、アレは無理だ。諦めた。関わらねェのが一番だ。
 カチンコチンの状態でカルトは俺の僅か前に立ち、案内し始めた。と思ったら石に躓いてこけそうになる。どじっ子かよ。
 首ねっこを掴んで助けてやった。しょうがねェな。
「ほれ、手出せ」
「切り落としましゅか!?」
「こけたくらいでンなことすっか。どうなってんだよゾルディック。手、つなぐんだよ。こけねーように」
 猫目をキョトンとさせたカルトの小さな手を、呆然としている内に握る。
「ほら。案内」
「……はい」
 やけに神妙に、カルトは歩き始めた。


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