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魔王の壁越え
6(完)
「ワリ。まさか飛ぶとは思わなかったぜ。ちょっと待ってろ。直すから」
 門があったところから敷地に入り、飛んだ扉まで進む。ゴンは俺のシャツを掴んだまま引っ付いてきた。こういう弟、マジほしい。
 扉に近寄ると、音もなく巨大な生き物が近づいてきた。犬を巨大化させたような、そんな生き物。たぶん、ミケ。
 闇を映す感情のない虚無の目に、ゴンはヒッと声を上げた。
 殺す。
 それだけしかない機械みてェな生き物。でも、機械じゃない。機械ではなく生き物ならば、本能が必ずある。
 虚無の目が、俺を見た。
 それにニィ、と笑いかけた。
「食っちまうぞ」
 一撃で首を落とし、むしって、焼いて、食う。
 俺にかかってきたら、それがおめーの末路だ。明確な殺意を伝えた。
 本能があれば、己の死は恐怖するもの。
 脅しなどではない本気を、生き物はちゃんと読み取った。そして、恐怖したのだろう。
 生き物はその場に伏せ、頭を垂れた。目はもう合わせようとしない。服従した。
 コイツにはもう、俺を害そうとする意思は残っちゃいないだろう。生き物に背を向け、倒れた扉に手をやる。そのまま持ち上げようとしてしゃがむと、シャツが引っ張られた。硬直したままのゴンだ。
「ゴン、危ねェからちょっと離れとけ」
「で、でもユースケ、あの生き物に背中向けるなんて」
「アイツは俺に完全服従した。獣は一度上下を決めたら従順だぜ」
 生き物に視線をやったまま、ゴンは唾を飲んだ。じっくり生き物を観察する。
 生き物からのプレッシャーに脂汗を流すゴンは、たぶん動物の生態に詳しいのだろう。生き物の状態を正確に読み取った。
「……本当だ。こいつ、ユースケを上だって認めてる」
「だろ。俺の身内だってわからせときゃ、襲われはしねーよ」
 ゴンの硬直した手をシャツからはがし、俺は門を持ち上げ、肩にかついだ。
 唖然とした顔のレオリオたちに、ふと数年前の暗黒武術会のことを思い出した。そういや戸愚呂が破壊された闘技場の代わりに、隣の会場から闘技場を肩にかついで持って来てたっけ。
 そうだよ。あの闘技場が何十トン、何百トンあったんだかわかんねェが、B級妖怪だった戸愚呂がアレを軽々持ったんだ。魔王の俺ならこのくらいの扉、少し力を込めたらそれだけで飛ばしちまうのは当たり前だった。もう少し手加減するべきだったな。 扉をかついで元の場所に置き、元通りに嵌め込んだ。どうか倒れませんように。いや、試しの門って名前なくらいだ。根性で立て。
 なんとか元に戻し、未だ静かなメンツを見る。ゴン以外全員、硬直していた。
 俺が近寄ると、3人は顔を引き攣らせてブツブツ呟いた。
「有り得ねぇ有り得ねぇ有り得ねぇ。そうかあの扉は木の板に代わっていたんだ。そうに違いねェ。よしオレの常識カムバック……!!」
「おかしい。明らかに人類が持ち上げることのできる重さの限界を軽く超越している。そうか、そろそろ朝なのか。夢から覚める時間か。いつの間に私は寝ていたのだろう」
「あぁそうか、夢だったか。そうだよねぇ、坊ちゃんところに友達が遊びに来るなんてやっぱり夢だったんだ」
 おーい、帰ってこーい。
 現実逃避する3人を余所に、ゴンだけが満面のキラキラした眼差しで俺を見た。
「ユースケすごい! カッコイイ!」
 あぁ。やっぱこういう弟ほしいな。
 俺はゴンの頭を撫でて答えた。
「俺ァ魔王だからな」
 ニシシ、と笑うと、ゴンは真面目な顔で頷いた。
「魔王って本当にすごいね」
 普通は冗談にされちまう俺の真実を、最初から真実であると理解したのは、そういやゴンだけだったな。ホント、将来が楽しみなガキだ。
「ンなマジな顔で言うなよ。照れちまうだろ」
「だって本当にすごいんだもん。オレじゃ試しの門も開けらんないし、あの生き物も怖いだけだった。ユースケだったら、ヒソカにも勝てそう」
 そういやゴンの中で強いヤツっつったらあの変態なんだっけか。なんだかハンター試験のときあったらしく、ヒソカにプレートを突き返したいようだ。
「ヒソカねェ」
 ガチでやったら瞬殺だが、アイツの念能力を引き出してじっくり戦ったら厄介な気はするな。
 俺とヒソカが勝負したときの結果より、ゴンが気になっているのは自分とヒソカの差だろう。微笑ましいねェ。その思いのまま、俺は言った。
「おめーなら、将来的にはヒソカにも勝てるぐらい強くなれるぜ」
「ホント!?」
 パッと表情が輝く。クク。撫で繰り回したくなるんだよなァ、こいつ。
「ホント。ま、おめーがこれから努力すればの話だな」
 あと、いい師に巡り会うのも大事だ。その辺は、ネテロのじーさんが念の師匠を付けるっつってたからなんとかなんだろ。
「オレ、頑張るよ」
「おう」
 決意のこもる真っ直ぐな眼差しに、頷きで応えた。
 にしても。
 こんないい場面だっちゅーのに、なぜクラピカたちは未だ放心中なんだ。
 仕方ねーなァ。
 フン、と鼻息を吐き、俺は3人に声をかけた。

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あきゅろす。
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