魔王の壁越え 3 すべての罠にかかり、罠を制覇し、進んでいく。イルミとの会話は、相変わらず宇宙との交信状態だ。奴の思考と俺の思考はどう考えても光年単位で掛け離れている。 あまりにも意思の疎通ができないのが、だんだんおもしろくなってきた。時間差の応答や、盲点からの反応は、慣れれば案外打ち返すのも楽しいもんだ。ただ、生涯のパートナー扱いだけは勘弁してほしいが。 進んでいたら、扉があった。中から複数の人間の霊気を感じる。50くらいいるな。 利き腕が空いているイルミが扉開け係だ。無言でイルミが扉を押し開けると、中には人間にしちゃ凶悪なツラをしたヤロウどもが、円形の闘技場の反対側にいた。 俺たちが中に入ると、扉が閉まり、鍵のかかる音がした。放送が入る。屋上での声と同じだから、えーと、ナッポーだったかの声だろう。 『三次試験官のリッポーだ』 違ってた。言わなくてよかった。 『今から君たちにはその囚人たちと戦ってもらう。ただし、この部屋に入ってからの時間と手錠を外していた時間の合計を、奥の部屋で時間を過ごしてもらう。二人で同時に戦うなら、時間は二乗となる。一対一でも、一対複数でも構わないが、勝敗は、どちらかが死ぬか、まいったというまでだ。さぁ、決めたまえ』 そういうルールか。よかった、口頭で。貼り紙式だったらまたしても時間差の説明を受けるはめになるところだった。 「ユースケ、どっちがやる?」 「俺が行く」 「手錠は?」 「外す」 手錠を外す鍵は、壁に掛かっていた。俺の側だけ手錠を外し、円形闘技場の上に上がる。 「試合形式は?」 反対側から、スキンヘッドの頭が傷だらけの男が聞いてきた。 「めんどくせーから全員上がれよ。俺は人差し指1本でやる。これ以外の指を使ったら、俺の負けでいいぜ」 反対側が笑い声が起きた。 「俺達全員相手に指1本だってよ!」 「俺達をしらねーんじゃねぇのか?」 「俺達ァみんな前科100犯以上の凶悪殺人犯として、超長期の刑期持ちなんだぜ」 「ガキと優男か。切り刻みてェなぁ」 男の癖にぎゃあぎゃあうるせー奴らだぜ。俺は無言で円形闘技場の上に立った。 「やるなら早くこいや。ちっとくらい楽しませろよな」 腕を組み、仁王立ちで言うと、頭に血管を浮き上がらせて囚人たちが上がって来る。ぐるりと俺の回りを取り囲み、ナイフやサック、縄や鉤爪など思い思いに武器を持っている。 「簡単にゃ殺さねぇぜ」 「まいったとも言わせねぇ」 「ここでお前らが費やした時間分だけ、俺達は刑期が短くなんだ」 ニヤリと笑い、囚人たちは一斉に俺へと武器を振り下ろした。 ゴキン ナイフが折れ、サックをしていた指が砕け、縄はちぎれ、鉤爪は先が欠けた。 「なッ!?」 驚愕と恐怖が混じる声が囚人たちから上がった。 「お前ら、やるなら本気でやれよ。痛くも痒くもねーじゃんか」 その後、囚人たちは必死で、寄ってたかって俺に攻撃を加えるのだが、どれもこれも羽毛タッチかよってくらいダメージがない。つまんねー。 「もういいや。おめーらみんな倒れとけ」 囚人たちの間を駆け抜ける。人差し指の一突きで円形闘技場にいた囚人たちは全滅した。殺してねーよ。床に転がっちゃいるが、ちゃんとピクピクしてるし。 「……なんだ、今の」 「み、見え、ねぇ」 「バ、バケモンだ」 バケモンじゃねぇ。俺ぁ魔族だ。 「で、お前ら降参すっか?」 即座に降参する奴はいなかった。 「へ、へへ、粘れば粘るだけ刑期は短くなんだ」 「ギリギリまで、誰が降参なんて言うか」 「お前は一度で俺達を殺さなかった。殺しに抵抗があんだろ」 「殺されねぇなら打たれ強さには自信あるぜ」 そんなわけで、囚人たちははいつくばっているくせに、ニヤニヤしながら誰も降参しねぇ。へぇ。 「まぁ確かに簡単に人殺しするのは好かねぇが、暴力をためらうタチでもねぇんでな。次は人差し指1本で背骨を折る。長ーぁい刑期を全身不随で過ごしたい奴は降参しなくていいぜ。降参するやつ、手ぇ挙げな。はい、5、4、3、2、1」 ゼロ、とカウントしたときには、全員の手が挙がっていた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |