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魔王の壁越え
観察所8
許せない

許せない許せない許せない

憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い

男同士で……なんて……許せない……憎い……



ああ……でも……



なぜ……こんなに、憎いのかしら……?




◆◆◆◆◆




翌朝、朝食をカイトにたかって済ませた後、玄関に集合した。

俺、カイト、バルザム、メンチ、ミロン、ギゴー、それに研究員のカク、総勢7名だ。

今日も、タヌカとナシエラは観察所詰めになる。

「今日は北側に向かって、赤耳毛長猿の捜索を行う。
携帯の電波が届かないので、お互いへの合図は原始的な方法だけど、発煙筒を使うよ。
赤耳毛長猿を発見したら確保し、発煙筒をたいて知らせること。
発煙筒だけど、2種類あって、赤い煙は発見確保済み、黒い煙は応援頼む、という意味になるから、使い分けてね。
それと、ユースケだけは青い発煙筒を持って。
赤でも黒でも煙が上がったらユースケは青い発煙筒をたいて居場所を知らせてほしい。
確保したならユースケのところに赤耳毛長猿を連れていくこと。
不慮の事態でも、ユースケのところに逃げれば、ユースケが何とかしてくれるだろうからね。
発煙筒の煙を見た人は、何色でもそこに駆けつけること。
黒の煙の場合は移動しているかもしれないから、黒い煙の場所から青い煙の場所を目指して動いて」

バルザムの説明に頷いて、全員が渡された発煙筒を確認する。赤い発煙筒と黒い発煙筒、それから俺だけ青い発煙筒の3本か。それを背中側のズボンに挟んだ。それを見たメンチに突っ込まれる。

「アンタさ、バッグとかないわけ?」

「ねーよ。身一つでこっち来たからな。パンツ一枚すら替えがねーよ」

「は? アンタ、パンツ穿きっぱ? きったな!」

「るせ。洗えるときは洗ってるよ」

「一枚しかなくてそれ洗濯って、そん時ノーパンなわけ? 超無駄情報なんだけど」

「……はあはあはあノーパン……ッ そんな情報をいただけるなんて……ありがとうございます~……ッ」

それを聞いて、目を血走らせ鼻息荒くしているミロン。俺がノーパンだと一体なんだっつーんだ。そのまま呼吸困難にならねーかな。

「ちなみに今は~!?」

「穿いてる」

「何色で種類は~?! 今日で何日目のパンツです~?!」

「変態か」

なんで答えると思ってんだよ。そこに、

「オレは黒のビキニ派だぜ!」

聞かれてないのにバラすギゴー。なんでバラしたよ。

「筋肉が黒のビキニです~!?」

「つーかだいたいみんな黒系のパンツじゃねーのか!? なあバルザム!」

「なぜオレに振るかなギゴーさん! じゃそろそろ出発ね! さあ行こう!」

バルザムが無理矢理話をぶった切ってくれた。助かった。

「……皆さん黒系のパンツ……!? ギゴーさんグッジョブです~……」

悶えるミロンを放置して、俺たちは出発した。

「あの、ミロンさんはどうしたんです?」

「ああ、持病の腐人科系の奇病だから放っておいてあげて」

カクに聞かれ、バルザムは真顔で答えた。








北に向かって進むことしばらく。北方向に、それぞれバラバラになって捜索していた。

俺はカクの護衛なので、早く進めないカクのために、皆から遅れて着いていく。

それぞれ一人で捜索に当たっているが、一人では知的領域残量僅かなギゴーには、腐臭逞しいミロンが付いている。ミロンの腐臭をものともしない、いや気付かないのがギゴーくらいだという説もある。

頭脳労働の研究員だから、カクの歩みは遅い。というか、命懸け登山レベルなので、俺たちはシャツにズボンみたいなコンビニに行く体だが、カクだけは登山家のような装備をしている。

荒い息を吐きながら、カクは一歩一歩山道を進んでいく。

比較的道になっていそうなところを俺が先に通り、木や草や蜘蛛の巣などをどけてカクが通りやすいようにして行った。

どうにもならないようなロッククライミングみたいなところは、小脇に抱えて跳んだ。

カクは、普段は観察所から出ることはないのだろうが、弱音など一切吐かず(さすがに崖ジャンプの時は悲鳴をあげたが)、目を血走らせて進む姿は鬼気迫っていた。

ときどき「ラムちゃん」と聞こえるので、ヤツのここまでする程の原動力が何かは明らかだ。つまりやべえヤツだ。

観察所から出て2時間ほど歩いた頃。

俺はカクと一緒だから大した距離は来ていないが、他の奴らはきっともっと奥まで行っているのだろう。

未だ発煙筒による合図はない。その時だった。

黒い狼煙が上がった。何かあったらしい。

すぐさま青い発煙筒をたいた。

事態を把握するため、黒い発煙筒が上がっているところまで円を広げて行く。

ここから1km先で、こちらに向かって全力で走ってくるミロンを発見した。黒い煙をたいたのはコイツか。一緒のはずのギゴーはどうしたんだ?

何かから逃げているようだが、一体何から?

その少し後ろからミロンを追いかけてくるのは、……なぜコイツがいるんだ?

よくわからないが、とりあえずカクに声をかけて注意を促しておく。

「今からミロンたちが逃げてくるから、俺の後ろから離れんなよ」

「な、なな、何があったんです?」

「わかんねー」

念能力者なので、ここまで1分半程度で来るだろう。

待つこと少し、藪の中にピンク色が見えた。

「ユースケさんッ! カクさんッ!」

藪の中を走り寄りながら、少し離れたところから俺たちの名前を呼ぶ。するとミロンの目に、何やら念が集まる。

「……わ~さすが魔王、読めない! カクさんは……ひっ!」

ミロンは走りながら何やらぶつぶつ言うと、息を呑んで立ち止まる。

「ユースケさんッ! カクさんから離れてくださいッ!」

その瞬間、背後で念が膨れ上がる。

カッと光が炸裂した。

咄嗟に念でガードする。



ーーーードンッ



べちゃ、びちゃ、と飛び散った肉片が地面に落ちていく。

その地面は、焼け焦げて抉れていた。

頬にピチャ、と生暖かいものが付いて手で拭う。

肉片だった。

そこにいたはずのカクはいない。

カクが、爆発した。

「……どうなってんだ?」

「ユースケさんッ! 無事ですっ、よね~!」

至近距離で爆発に巻き込まれた俺を心配して声をかけたようだが、煙の中に何事もなく立つ俺を見て、ほっとしたような呆れたような声に変わる。

「あ~っと、ファイアーアロー!」

背後に向かって弓を打つようなポーズを取る。すると、炎の弓矢が飛んでいき、後ろにいた男に向かっていく。

弓矢は当たることなく片手で弾き落とされたが、その隙にミロンは俺のところまでたどり着いた。

「なぁ、これはどういうことなんだ?」

俺の横で、ミロンは自分が来た方向に体を翻す。

藪の中から現れたのは、体の右手側を吹き飛ばされたタヌカだった。

「説明の時間がないので、「記憶宝珠(メモリーオーブ)」を使います~」

そう言って、ミロンは直径5cmくらいのガラス玉を手のひらに出現させた。

「ユースケ・ウラメシさんへ」

息をふっとガラス玉に吹き付けると、それを俺に渡してきた。手に持った途端に、言葉と映像が流れてくる。


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