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魔王の壁越え

「さあ、シルバたちが来る前に行きなさい」

 異常なジジィだが、口にしたのはマトモな言葉だった。

 と思ったンだが。

「会いたくても会えない。そのジレンマが愛を深めるのだ。なぁ素敵だろう」

 目がイってやがる。頭に花が咲いてるか、ウジが沸いてるかに違いねェ。

「じいちゃん、そういうドラマ好きだもんなぁ」

 キルアがぼそっと呟いた。

 ジジィ暇なのか。

「父と母と息子が一人の男を巡って愛憎劇を繰り広げるなど、過激過ぎてドラマじゃ放送されんからな。誰とくっついてもドロドロで面白いが、わしとしては禁断の4ピー淫蕩の21禁も楽しいと思う。ユースケの本命は誰なんだ?」

 真剣な顔で聞いてきた。表情と内容に激しく違和感を覚える。

 ジジィ。4ピーが伏せ字になってねーよ。つか頭痛ェよ。

「ねえキルア。よんぴーとかにじゅういちきんって何だろう?」

「じいちゃんの見てたドラマに、確かよんぴーっていう俳優が出てた」

「あ、俳優かあ。にじゅういちきんは?」

「んー、ゾンビになる菌?」

「そんな菌があるの!? こわっ!」

 キルアが知ったかぶりで、よんぴーがゾンビになるドラマを即席で捏造しやがった。もはやどこに突っ込んだらいいのかわからない。

 年少組の脱力する会話を聞き、レオリオは頭を抱え、クラピカは不自然に目を逸らした。

「はは。4ピーというのはな」

「おめーは黙っとけッ!」

 説明しだしたジジィに、テーブルからカップを掴み、投げる。ゼノは笑いながら、ゴキブリのように避けやがる。マジなんなんだよゾルディック。

 弟は女装っ子で猟奇的な宇宙人。

 兄は豚でオタクと、もう一人は完璧な宇宙人。

 父も宇宙人で、母も宇宙人。

 で、ジジィは昼ドラ好きな宇宙人。

 誰も彼も常軌を逸した宇宙人しかいない中では、小生意気だがキルアが一番マトモだ。次点が豚というあたりが異常すぎる。キルアには、ぜひこのままゾルディックに感染(うつ)らないでもらいたい。

 その後すぐに執事室を出ると、ぞろっと並んだ執事たちとジジィが見送ってくれた。

 見送られたキルアは、何か紙の束をジジィから渡され、困惑の表情をしながら受け取っていた。何をもらったんだか。

 執事室から出て山を下り、試しの門はゴンが開けた。成果を見せたかったらしい。

 そんなゴンは素直でかわいい。マジでマイナスイオンが出てる。

 ここしばらく、次々に現れる宇宙人によって削りに削られた精神が癒されるぜ。

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あきゅろす。
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