魔王の壁越え 5 「さあ、シルバたちが来る前に行きなさい」 異常なジジィだが、口にしたのはマトモな言葉だった。 と思ったンだが。 「会いたくても会えない。そのジレンマが愛を深めるのだ。なぁ素敵だろう」 目がイってやがる。頭に花が咲いてるか、ウジが沸いてるかに違いねェ。 「じいちゃん、そういうドラマ好きだもんなぁ」 キルアがぼそっと呟いた。 ジジィ暇なのか。 「父と母と息子が一人の男を巡って愛憎劇を繰り広げるなど、過激過ぎてドラマじゃ放送されんからな。誰とくっついてもドロドロで面白いが、わしとしては禁断の4ピー淫蕩の21禁も楽しいと思う。ユースケの本命は誰なんだ?」 真剣な顔で聞いてきた。表情と内容に激しく違和感を覚える。 ジジィ。4ピーが伏せ字になってねーよ。つか頭痛ェよ。 「ねえキルア。よんぴーとかにじゅういちきんって何だろう?」 「じいちゃんの見てたドラマに、確かよんぴーっていう俳優が出てた」 「あ、俳優かあ。にじゅういちきんは?」 「んー、ゾンビになる菌?」 「そんな菌があるの!? こわっ!」 キルアが知ったかぶりで、よんぴーがゾンビになるドラマを即席で捏造しやがった。もはやどこに突っ込んだらいいのかわからない。 年少組の脱力する会話を聞き、レオリオは頭を抱え、クラピカは不自然に目を逸らした。 「はは。4ピーというのはな」 「おめーは黙っとけッ!」 説明しだしたジジィに、テーブルからカップを掴み、投げる。ゼノは笑いながら、ゴキブリのように避けやがる。マジなんなんだよゾルディック。 弟は女装っ子で猟奇的な宇宙人。 兄は豚でオタクと、もう一人は完璧な宇宙人。 父も宇宙人で、母も宇宙人。 で、ジジィは昼ドラ好きな宇宙人。 誰も彼も常軌を逸した宇宙人しかいない中では、小生意気だがキルアが一番マトモだ。次点が豚というあたりが異常すぎる。キルアには、ぜひこのままゾルディックに感染(うつ)らないでもらいたい。 その後すぐに執事室を出ると、ぞろっと並んだ執事たちとジジィが見送ってくれた。 見送られたキルアは、何か紙の束をジジィから渡され、困惑の表情をしながら受け取っていた。何をもらったんだか。 執事室から出て山を下り、試しの門はゴンが開けた。成果を見せたかったらしい。 そんなゴンは素直でかわいい。マジでマイナスイオンが出てる。 ここしばらく、次々に現れる宇宙人によって削りに削られた精神が癒されるぜ。 [*前へ][次へ#] [戻る] |