魔王の壁越え 1 ゴンたちの霊気に向かって走り、着いた場所は、毒殺未遂集団の棲息する執事室だった。 なんでンな場所にいるんだよ。 キルアを小脇に抱えたまま、気配を殺してこっそり屋敷に侵入する。こっそりといっても、速さは人間の目にうつらないレベルだろうが。 俺も案内された部屋の中、ゴンを真ん中にレオリオとクラピカが座り、執事長の、あー、なんつったか、鈴木だか佐藤だかなんかありふれた苗字みたいな名前のオッサンと向かい合ってソファに座っていた。 ゴンが自信ありげに、鈴木か佐藤か、いや山田だったかもしれない、そんな執事長に告げる。 「後ろの人でしょ」 驚いたような気配の中、ゴンの後ろにいた男が手の平を開く。中には1ジェニーコインがあった。 ははぁん、あいつら俺もやられた、どっちに入ってるでしょうゲームをやってるわけか。 後ろにコインが飛ぶくらいだ、相当なアクションがあったに違いないが、ゴンの動態視力を舐めすぎだな。あいつの五感は野生生物だぜ。 「お見事です」 執事長山田(仮)が拍手すると、執事たちが皆、それに続く。 俺も口笛吹いてみた。口笛は拍手に紛れ、俺たちが入って来たことには気付かれていない。 入り口のドアに立つ俺と、小脇に抱えられた、なぜかぐったりしているキルア。ん? どうしたんだコイツ。 軽く揺すってみたら、うぅ、と小さな唸り声がした。生きてるみてぇだが、吐くなよ。吐く前に捨てっぞ。 そんな俺たちに気付かず、ゴンたちは話を進める。 「屋敷の方から連絡が来るまで、もうしばらくこちらでお待ちください」 「やった! やっとキルアに会える!」 執事長の言葉に、ゴンがはしゃいだ声を上げる。上げた途端、イテ、と顔をしかめた。 見れば、ずいぶんとひでー顔をしてやがる。顔中アザだらけで赤く腫れていた。片側の目は、血抜きをしたのかナイフで切られ、テープで止められている。 まさか執事長め、俺の弟分を殴ったのか? いい年した大人がガキを殴ったっつーのか? 事実でもゴンがやられたからといって俺が仕返しをするこたァしないが、視線は3割増しに冷たくなるぜ。 冷えた眼差しを執事長の山田に向けると、ヤツは瞬時にこちらを振り返った。俺の存在に目を見開き、次いで小脇のキルアの存在に気付き、叫んだ。 「キルア坊ちゃんッ!」 駆け寄ろうとしているのだろうが、俺の視線に圧されて動けない執事長。 当然、他のメンバーも俺たちに気付いた。 [次へ#] [戻る] |