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魔王の壁越え

「「アレ」だけなわけねーべ。目と反応はこの一週間で段違いに仕上がってるぜ」
 まぁまだまだ安心して実力者の前に出せるレベルじゃねぇけど。何せ念を知らないしな。
 だが、普通に外に出て生活する分には十分安心できるレベルだし、念を知らない一般人相手ならまず問題ないだろう。
 俺が修行中徐々に強めた「アレ」。
 シルバが契約の際に放った「アレ」。
 キルアが以前なら即座に逃げ出しただろう「アレ」。
 それは己に向けられる殺気、だ。
 ただの殺気ではなく、キルアは己が敵わないような強い殺気を受けると逃げるよう、インプットされていた。
 おそらく、そうしたのは今もなおキルアの頭に刺されているイルミの念針だ。多分にキルアの身を守るためだろう。
 確かに命の危険は減る。多量の殺気を受けたら、念操作で勝手に体が逃げ出してくれるわけだからな。だけどよ、そんな奴、強くなれっかよ。
 だいたい、そんなんじゃまず、兄貴に逆らえない。望みも言えない。
 だから、殺気への耐性をつけたのだ。強めに殺気を受けても念が反応しないように。
 だが、耐性だけついたんじゃ本気でヤバいことがわからず、無駄に命を危険に晒すのは確実だ。その辺りは、視力と反応速度を上げることでカバーした。
 そもそも、強い殺気を浴びた時点で頭が働かない、本能だけで逃げるっつーインプットが間違ってる。
 ヤベーと感じたら頭しっかり働かせて、全力で逃げることを考えるようにしねーと意味ねぇだろうに。それじゃ判断力だとか経験値だとかが上がらない。
 つまり俺は、殺気を浴びた際に、冷静に状況を判断し、行動できるようにしたかったわけだ。
 シルバがフン、と鼻を鳴らし、愉快そうに言う。
「ユースケがついているなら問題ないだろう。だろう、キキョウ」
 隣でずっと黙っていた妻に話を向ける。キキョウは不承不承にも頷いた。が、キキョウは、でも、と口にする。
「でもアナタ。ユースケさんはこれからイルミと結婚式が」
「ねェよ」
「子作りだって」
「ぜってーしねェよッ!」
「まぁッ! 今流行りの籍だけ入れて、というものなのかしら!? イルミったら何を考えているの! わたし、最近の若い子のそういう考え方には賛同できかねるわッ!」
「だぁッ! もうお前マジ人の話を聞けよ!」
 もうここは女相手とか関係ない。相手は女じゃない。宇宙人だ。よし、殺ろう。
 そう決意を固めつつあったとき。


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