魔王の壁越え 4 キルアの話が一段落すると、シルバはキルアの名を呼んだ。猫目をキョトンとして、キルアは父親を見上げる。鷹のような鋭い目が、優しく微笑んでいた。 「外に出たいか?」 その問いに、期待を込めてキルアは頷いた。 「わかった。行ってこい」 キルアの目が大きく開き、輝いた。 「いいの!?」 「まぁアナタ!?」 キルアと同時に、キキョウの甲高い非難の声が響く。 「何を考えてるの!? 今が一番重要な時期だとい」 「黙ってろ」 ヒステリックな叫びを遮ったのは、シルバの殺気混じりの眼差しだった。キキョウが歯を噛み締めて黙る。結構亭主関白なんだな、と思う。 再びシルバは、キルアの目を覗き込む。その体からは「アレ」が滲み出ていた。けれど、さして動じないキルアに、シルバは嘆息する。 「外に出てもいい。だが、ここがお前の家なのは変わらない。いつでも帰って来い。だが、一つだけ約束しろ」 俺との修行で「アレ」に慣れたキルアは、「アレ」には以前ほど顕著な反応はしなくなったのだろう。キルアは怯えることもなく、ただ真剣に父親を見つめた。 「仲間を決して裏切るな」 親指の腹を噛み切ると、シルバはキルアに向ける。キルアも同様にまだ小さな親指を噛む。 そして、親指の腹同士を合わせ、血を交わした。 キルアは知らない。 俺も効果は知らない。 だが今、念の契約が行われた。 こすいオヤジだな。情に訴えた感動的な場面で、息子を念の罠にかけるかよ。 今何かをするわけじゃないようだし、キルアが大事にされているのは確かだ。なら、家族間の問題で、キルアがなんとかすべき話だ。それを止めるほど野暮じゃない。 隠匿された念の契約を終えると、シルバが俺に視線を向けた。口出しなんざしねぇよ、と呆れた溜め息を吐いてやる。 意思が伝わったのだろう。わずかにシルバの口の端が上がった。 「ときにユースケ。キルに耐性がついているのはお前の仕業か」 確信しながら尋ねてくるのは「アレ」のこと。ちゃんと息子の成長に気付いたか。 「おう。もっと強く放っても平気だぜ」 「余計なことを、と言うべきか。ならちゃんと実力も見合う程度に上げてくれているんだろうな」 無駄に「アレ」に対する耐性だけあっても仕方ねぇんだが。と渋い顔をするシルバ。 「マジ過保護なオヤジだな。宇宙人のアニキも同様か」 「ちょっと、父さんもユースケも何の話してんの?」 しかめっつらのキルアが間に入ってきた。 「俺に一発も入れらんねぇガキンチョには教えなーい」 口に掌を当て、馬鹿にしたようにキルアを指差して言ってやったら、事実なだけに、ムッとしてキルアは口を閉じた。ここで食い下がって何かを言えば、墓穴を掘ることになると学んだようだ。よしよし。 キルアが引き下がったところで、再びシルバに顔を戻す。 [*前へ][次へ#] [戻る] |