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魔王の壁越え

 キルアの話が一段落すると、シルバはキルアの名を呼んだ。猫目をキョトンとして、キルアは父親を見上げる。鷹のような鋭い目が、優しく微笑んでいた。
「外に出たいか?」
 その問いに、期待を込めてキルアは頷いた。
「わかった。行ってこい」
 キルアの目が大きく開き、輝いた。
「いいの!?」
「まぁアナタ!?」
 キルアと同時に、キキョウの甲高い非難の声が響く。
「何を考えてるの!? 今が一番重要な時期だとい」
「黙ってろ」
 ヒステリックな叫びを遮ったのは、シルバの殺気混じりの眼差しだった。キキョウが歯を噛み締めて黙る。結構亭主関白なんだな、と思う。
 再びシルバは、キルアの目を覗き込む。その体からは「アレ」が滲み出ていた。けれど、さして動じないキルアに、シルバは嘆息する。
「外に出てもいい。だが、ここがお前の家なのは変わらない。いつでも帰って来い。だが、一つだけ約束しろ」
 俺との修行で「アレ」に慣れたキルアは、「アレ」には以前ほど顕著な反応はしなくなったのだろう。キルアは怯えることもなく、ただ真剣に父親を見つめた。
「仲間を決して裏切るな」
 親指の腹を噛み切ると、シルバはキルアに向ける。キルアも同様にまだ小さな親指を噛む。
 そして、親指の腹同士を合わせ、血を交わした。
 キルアは知らない。
 俺も効果は知らない。
 だが今、念の契約が行われた。
 こすいオヤジだな。情に訴えた感動的な場面で、息子を念の罠にかけるかよ。
 今何かをするわけじゃないようだし、キルアが大事にされているのは確かだ。なら、家族間の問題で、キルアがなんとかすべき話だ。それを止めるほど野暮じゃない。
 隠匿された念の契約を終えると、シルバが俺に視線を向けた。口出しなんざしねぇよ、と呆れた溜め息を吐いてやる。
 意思が伝わったのだろう。わずかにシルバの口の端が上がった。
「ときにユースケ。キルに耐性がついているのはお前の仕業か」
 確信しながら尋ねてくるのは「アレ」のこと。ちゃんと息子の成長に気付いたか。
「おう。もっと強く放っても平気だぜ」
「余計なことを、と言うべきか。ならちゃんと実力も見合う程度に上げてくれているんだろうな」
 無駄に「アレ」に対する耐性だけあっても仕方ねぇんだが。と渋い顔をするシルバ。
「マジ過保護なオヤジだな。宇宙人のアニキも同様か」
「ちょっと、父さんもユースケも何の話してんの?」
 しかめっつらのキルアが間に入ってきた。
「俺に一発も入れらんねぇガキンチョには教えなーい」
 口に掌を当て、馬鹿にしたようにキルアを指差して言ってやったら、事実なだけに、ムッとしてキルアは口を閉じた。ここで食い下がって何かを言えば、墓穴を掘ることになると学んだようだ。よしよし。
 キルアが引き下がったところで、再びシルバに顔を戻す。


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あきゅろす。
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