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魔王の壁越え
5(完)
「カル、ユースケを、崇拝する勢い、だったし? きっと、有効活用、してるんだろうなあ」
 有効活用?
「ハァハァしたりとか、スリスリしたりとか、舐めたりとか。で、そこに兄貴が帰ってきて、今度は兄貴が有効に、活用するわけ」
 ゾッとした。
 キルアは宇宙人が同じことをするってだけを言いたいのだろうが、そんなもんじゃない。こいつめ、知らずにすんげー恐ろしいことを気付かせてくれやがった。
 変態っ子の方はまぁ好きにすればいい。俺のシャツを舐めようがナニしようが、気持ちはよかないが俺に実害はない。
 だが、宇宙人は別だ。奴には念がある。針を使う以外、奴にどんな念があるかわからない。
 奴は操作系の能力者だ。もしかすっと俺の着ていたシャツを使って、俺を操作するとかナニかできてしまう可能性がある。それは恐ろしすぎっだろ。
「で、オレは今、これに関して、ユースケの、知らない情報を、一つ掴んでいる。絶対、ユースケが、知りたい情報、だよ。さて、どうする? オレの要求、飲む?」
 ふむ。
 拷問にでもかけて聞き出してやろうかと思った。絶対的強者に対して、自分の身を確保できない、目の前での取引という手法は正直よろしくない。乗ってやる価値はねェ。
 だが、別の視点にする。
 今俺が放つ「アレ」のレベルの前でこれだけ機転を利かせることができるなら、これからの成長を見越せば、まぁ今は合格にしてやってもいいラインかと思う。
 決めた。
「いいぜ。要求を飲んでやる」
 その言葉に、キルアの全身が安堵で緩んだ。
「で、おめーの要求はなんだ?」
「30秒動かないで。何もしないで」
「りょーかい」
 キルアはよろめきながら立ち上がり、拳を一つ、俺の腹に入れた。力のない、当てるだけのパンチだが、一発は一発だ。
「へ、へへ。終わっ……た……」
 笑いながら、キルアは沈んだ。ま、よく頑張った。と認め……、いやだめだろ!
「おいコラッ!! 情報はどうした、情報!! 気になるじゃねーか!!」
 どんなに揺すっても、キルアはもう目を開けなかった。完全に落ちてやがる。
「ったく、仕方ねェな」
 宇宙人の情報だったらしいから、どんな情報だったのか非常に気になるが、そのまま寝かせてやることにした。
 結局、キルアが目覚めたのは翌日の夜で、会話をするのは二日後になる。
 その間、帰ってきたゾルディックのヒステリーママ、キキョウと恐怖の追いかけっこをし、やっとキルアから得た情報は。
「兄貴、あと三日で帰ってくるってさ」
 その情報は二日前のもの。ってこたぁ。
「帰ってくんの明日か!?」
 キルアを放置して逃げようかと思ったところで、キキョウママから新たな情報が入る。
「いいえ! 帰ってくるはずだったのだけど、ハンターライセンスを持っているなら、とパパが新たな仕事をお言い付けになって、あと二週間は帰って来られなくなってしまったのですのよ」
 つまり、キルアの切り札はクソだった、と。
「えへ」
 にっこり笑うキルアに、にっこり笑いかえす。
 オレ、死んだ。
 キルアの声が聞こえた。そうだな。おめー、死んだわ。
 内なる声で会話をしていると、甲高いキキョウの声が割って入った。
「それならばユースケさん! 結婚式の衣装合わせをしますわよ! オホホホホホッ!!」
 再び鳴り響く、追いかけっこのゴング。
 念弾をぶっ放して凄まじい勢いで追いかけて来るヒステリックな貴婦人から、俺は逃げ出した。


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