世の中は確かに変わりつつある
8
聖城学園の治安は、見たところいいようだ。
変装王道転入生の真司のいる学校で治安がいいかどうかと考えたら否、だろう。
ただどうやら、聖城学園独特の風習により和解の一途を辿っているようだった。
桐嶋学園に負けず劣らずなふかふかの布団の上にダイブする。
高級な羽毛が疲れた体を優しく包み込んで離さない。自分が起き上がりたくないだけだけど。
「元」
誰かが俺の頭を撫でる。誰か、と疑問に持つことも愚かなほど、誰が俺を撫でているのかわかっている。
普段のチャラ男はなりを潜めている。
「…モモ」
「どうした?総長に会って悩みでも出来た?」
「…出来た」
モモの顔を見るために、うつ伏せの顔を横に向けて見た。
顔はうっすらと笑みを浮かべているのに、その瞳は深い。ピンク色の髪の毛が綺麗だ。
モモは無理やり訊いてくるようなことはしない。それが嬉しくもあり、普段のモモとは少しかけ離れていて違和感も感じた。
だけど、だからこそ今までで一番相談してきたのだろう。
「いやね、真司と須藤を見てて、俺にも"たったひとり"の特別は出来るんだろうかって思っちゃってさぁ。俺らしくないよねぇ」
チャラ男の俺は特別を作らない。このそれはみんなが知っていることで、俺が桐嶋で本性をさらけ出さない限りは覆ることのないことなのである。
なんて、自分で言ってて悲しいのも事実なんだけどね。
「…俺としてはね、元」
モモが何かを語りかけるように、何かを諦めたように口を開く。
「元に"たったひとり"が出来ないのであればそのままでいてほしい。ずっと、元には特別なんていなくてもいいんだ」
モモの指の間に、荒く俺の髪の毛が絡んで、小さく、グシャという音が聞こえてきた。
「"たったひとり"が出来ないと悩む元のままが俺はいい」
「…タチわる」
悪態をついて枕に顔を埋めた。
「――元」
モモとは思えない優しい声。
モモと同室になってよかったと思える。
「和巳、って呼んで」
そうか、モモの本名って百咲和巳、だっけか。
「――和巳」
これは俺を甘やかしてくれたお礼、かな。
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