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世の中は確かに変わりつつある






遠くの方でトゥーラの鳴く声が聞こえて目が覚めた。だが、部屋の中にはトゥーラはいない。
ベッドの横のサイドテーブルに置いてあるデジタル時計を、霞んだ視界でやっと読む。朝の6時。亜希斗に解放されてからまだ3時間しか経ってない。早起きの習慣がこんなところに出てしまうとは。
緩く腰に巻かれた亜希斗の腕を退かしてベッドから出て行く。眠りの深い亜希斗はこの程度の振動では起きない。

「いっつ…」

腰に物凄い衝撃。痛くないけどどこか関節に刃が突き刺さって動けない感じ。俺はすっぽんぽんのまま風呂場へ直行した。
風呂から出たのはその10分後ぐらいだろうか。中に出されたものは亜希斗によってきれいに清められていたから、汗を流すだけ。腰にタオルを巻いただけの恰好で寝室に行くが亜希斗はまだ寝ている。
クローゼットから下着と制服を出して着替えたらリビングに再び出て冷蔵庫を覗いた。うん、やっぱ食材ねぇ。
現在の時刻は6時15分ちょっと前ってところだ。桐嶋学園の設備はかなり整いすぎてコンビニは24時間営業。しかもスーパー並みの広さと品揃えを誇っている。うんよし、買い物行ってこよう。

寮の二階はフロアの半分がコンビニになっている。残りの半分は食堂。食堂は中等部と高等部の生徒がぴったり入ってまだ余るほど。何たって壁際にいたら反対の壁が見えないくらい広いんだから。
ガラス張りのウィンドウの中に入るとそこはコンビニ。どうやらここのコンビニは桐嶋学園が他の企業と独自に手を組んでいるから、他のコンビニの企業とかから委託等していないらしい。

「あれ、元君じゃないか」
「仁科さん!」

ここのコンビニの責任者である仁科京さんだ。仁科さんは商品棚の整理をこんな朝早くからやっている真面目さんなんだけど、俺の情報網では実家がヤの付く職業らしい。
そんな仁科さんは、背まで伸びた長い黒髪を一本に結んでいて、やはりいい男。俺に気付いてふわりと笑った時なんてきっと誰でも落ちる。

「こんな朝早くから何を買いに来たんだい?」
「んーとぉ、卵とベーコンとお米と納豆。あ、あと牛乳と豆腐。あー、滑子あるぅ?」

ほうれん草はあったはず。お米は三人が食べるのには少なかった気がする。納豆と牛乳は俺の必需品。
ちょっと待ってね、と言って仁科さんが立ち上がって行ってしまう。何だか手持ち無沙汰になって、先程まで仁科さんがやっていた商品棚の整理に取り掛かった。
待つこと5分。買い物籠に俺が言ったお米以外の食材が入っている。さすがぁ。

「お米はレジにあるからね」
「あああ、俺持ちますよっ」
「いいのいいの。僕がやりたいだけだから」

そんな、営業スマイルとは違う優しい笑みを見せられたら否定も拒否も出来ない。そんな俺の弱い部分をこの人は的確に突いてくる。流石です。
レジには確かにお米の袋が置いてある。5キロは流石に重いな、と仁科さんが会計をしているのをぼんやり眺めながら思った。すると、来客を知らせる鐘がチリンチリンと鳴った。
珍しい、と思いつつ扉の方を見れば、なんと昨日俺に四年振りに熱烈な告白をして来た田沼君だった。

「あれ、何でいるの?田沼君」
「元君は彼と知り合いなのかい?」

3419円です。と言った仁科さんにクレジットカード機能付きのカードキーを渡す。

「うーん…まぁ」
「彼ね、時々来てはチョコとか買って行くんだよ」
「へー」

甘党なのかな?と歩く田沼君を見ていたらバッチリ目が合ってしまった。げ。

「元!」
「来ちゃったよ、元君」
「…はぁ」

小走りで近付いて来た田沼君に腕を引っ張られて胸の中にダイブ。いたー、鼻打った。

「元君、お米どうする?配達使う?」
「あー…んー、じゃぁ」
「俺が持ってく」

ああ、そう言えばここに逞しい男がいたね。うん。

「じゃあお願いするねぇ」

田沼君は俺の左手を握ったままお米を担いだ。俺はカードキーを受け取って、急かす田沼君を待たせながら食材の入った袋を貰った。

(#^ω^)⊃

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