中編小説
2.またひとりで空まわり
2.またひとりで空まわり
僕の目論見は当たり、会長から告白を受けた。勿論イエスとは答えてないが。
だから僕と虎太郎の関係は終わりを意味した。
例え嘘の関係でも、僕はこの嘘の糸を放すことは出来ない。
だって、二度と戻れないから。
それが怖くて、僕は虎太郎に会長から告白されたことを伝えてない。伝えられない。
だけど会長があからさまに近付いてくるから何かしら悟っているのかもしれないとは思うが。
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原君、とその名を呼ぶ。
虎太郎の名前を呼ぶのは怖い。だから名前を呼ぶのは心の中だけって、何か僕恥ずかしいよね。
虎太郎はゆっくりと視線を僕に合わせた。そして優しく笑う。
これが演技だとしても、僕はいつでも胸を弾ませてしまうのだ。とても辛いものだと理解はしている。
「どうした?」
「ちょっと用事があるから、あの子と先帰ってていいですよ。ってのを伝えようと」
あの子は王道君のこと。
僕は敢えてあの子の名を呼ぶことを避ける。
「用事って何だよ」
「呼び出しですから大したことじゃないですよ」
「誰からだ」
「?会長からですけど」
「…行くのか?」
「ええまぁ、呼ばれたので」
虎太郎は考える素振りを見せた。
何を考えているんだろう。僕と会長のこと?
「…早く帰って来いよ。夜飯は一緒に―――」
「―――紗英」
「うわっ」
いきなり腕を引かれて不自然な形で後ろに倒れる。
虎太郎の驚いた顔が見えた瞬間、背中に適度な固さと温もりを感じて、ああ、誰かに引っ張られたんだなと理解した。
「会長…」
役職名で呼んだら応えず僕をじっと見てきた。会長が何を言わんとしているかなんてすぐわかった。
「嵐志、会長」
「ん、まぁいいだろ」
満足そうに会長は僕の腕を離した。
だけど僕の腰に回された腕だけは離れなかった。
特に咎めるものではないだろうと判断して会長の勝手にさせといた。
「何でここに?今から行くつもりだったんだけど」
「いや、うちのクラスのHRが早く終わってな。どうせこのクラスは生徒会室に行くには通るから」
「ふーん」
顔近いなぁ、何て今思った。
「紗英は夜も空いてるか?」
「え?うん、まぁ」
「じゃあ今日は俺の部屋で夜ご飯食べないか?」
「どうせ僕が作るんでしょう?」
まぁな。と笑う会長に、呆れた、と言って笑った。仕方ないだろう。
「っ、…待てよ、紗英は俺らと飯食うんだ」
すっかり存在を忘れられていた虎太郎が口を挟んで来た。
「偶にはいいだろうが。なぁ、紗英」
「え、あ、うん。原君、今日は嵐志会長と食べるので僕のことはお気になさらず食べていて下さい」
「…ンだよ、……彼氏より他人を優先させるってことかよ」
「っ!」
驚いた。
虎太郎が『彼氏』という偽りの仲を持ち出して来ることに。
「ハッ!数時間別の男ンところにいるだけで不安になる『彼氏』ねぇ。歪な関係はどうやっても直らねぇからなぁ」
「っ!?テメッ…!」
「原くっ…!」
僕らの偽りの関係を知っていると仄めかす言動に僕は焦る。
そんな会長に虎太郎を殴りかかろうと足を踏み出した。振り上げられた拳を庇うように僕は会長の前へと飛び出した。
虎太郎は僕を見た瞳を開いてピタリと拳を止めてくれた。
た、たすかった…。
「馬鹿だろ、紗英」
「はぁ!?」
会長を庇ったのに何故か馬鹿にされた。会長に。
「……、…」
虎太郎が何かを囁いた。
不思議に思って虎太郎を見ると、先程振り上げた拳は太ももの横にあり、痛々しげに拳を握り締めていた。
「……そ…やって…、」
「…?原君?」
何だ?聞こえない。
そう思って見た虎太郎の顔は酷く歪んでいて、泣きそうだな、と思った。
「そうやって、いつでも優先順位は会長だ…。俺は…」
一区切りをした虎太郎は、僕の瞳を一直線に見据えて、
「またひとりで空まわりしてる……」
空まわりしているのは僕の方だよ、とはこんな虎太郎を見たら言えなかった。
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