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中編小説
2.たまたま不調だっただけだ






僕の通う学園は、ひとつひとつの行事を深く大々的に執り行う。
静かなのが大好きな人には向かない学園だが、生徒会と唯一交流出来る場なため、ほとんどの生徒はかなり喜んで参加しているが。ついでに言っておくと僕は好きじゃない。本読んでたい。

その為か、大きな行事が近付く度に生徒会や風紀委員が慌ただしくし始める。
生徒会は行事を取り仕切る。風紀委員はより安全にする為に日々忙しいらしい。噂によると、最悪寝る時間すらないとか。

会長と出会ってから早一週間が過ぎた。
それ以来、当然と言えば当然だが、会長とは話すことも、会うことすら叶わない。
まぁ、これが当然な姿であるわけなのだが。

しかしある日突然、その”当然”が覆された。


――『2年B組高史辺音波、至急生徒会室に来い』


「………は?」


たっぷり数十秒。考えた末に気付いたこと。僕、高史辺音波って名前だったんだなぁ。

…すみません、現実逃避です。



************



いかにも高級というような、煌びやかな部屋。

あ、別にピカピカしてるわけじゃないよ。ただ何となく。

その煌びやかさに劣らないそのお方は、そう、

「…副会長」

「わざわざ呼び出して悪かったね」
「いえ…別に」

会長よりさらさらの茶髪のその人は、会長の次に権力があり、裏の権力者とも称される副会長様だった。


「あの、ところで、何か?」

早く本題に入ってほしいと先を促す。
あの放送の後で、生徒会のファンに何をされるかわかったもんじゃない。早く帰りたい。

「ああ。…ねぇ、君は和彦に何をした?」
「…カズヒコ?…ああ、会長」

和彦って誰だと一瞬考えてしまった。
海藤和彦。我らが生徒会長様の本名だった。

でも、

「いきなり何です?」

1週間会ってもいない人に何をすると言うのだ。

「いやね、和彦、ちょっと風邪を拗らせてね。まぁいいや、取りあえず来てよ」

「…」


わかった。副会長って直感タイプだ。



************



「失礼するよ」


生徒会室の奥。そこにはもうひとつの部屋があった。
部屋の扉にはプレートが取り付けてあった。【仮眠室】

何故仮眠室?と思ったが副会長に連れられて僕も仮眠室の中に足を踏み入れた。


「具合はどうだい?」
「ん・・・お前か・・・」

そこに眠っていたのは、1週間前出会った生徒会長その人だった。
まぁ、先程までの副会長の会話の流れから、考えられないことはないが、何故僕を連れてきた?

「・・・誰かいるのか?」
「ああ、彼ね」

「・・・っ」

副会長が体をずらして、会長から僕への障害をなくす。
僕を認識した会長は一瞬息を詰めて目を見開いた。

「やっぱりそうか」
「やっぱりって・・・、何ですか?」

副会長が納得したように頷くが僕にはさっぱりわからない。
いい加減、説明してくれたっていいのに。

「とういうわけでね、僕はまだ仕事が残っているから音波君には和彦の見張りをお願いしたいんだ」

「・・・見張り、ですか?」

そもそもなんで僕が。という疑問は、副会長の必殺スマイルに消し飛ばされてしまった。

「和彦はね、隙あらば仕事をしようとするんだよ」

まったく、病人は病人らしく眠ってないと迷惑が掛かるのに。僕に。
とか言い出す副会長に呆れて何も言い返せない。

まぁ、ようするに僕に迷惑掛けるなってことだろう。
と言われても、

「僕なんかがいてもいいんですか?」
「君だから頼んでるんだよ」
「っ、おい・・・ぐっ!」

上体を勢いよく起こそうとした会長の頭を、副会長は鷲掴んでベッドに逆戻りさせた。
僕はその光景に呆然として開いた口が閉じなくなってしまった。

「む?音波君って・・・」
「ふえっ!?」
「…テメェッ、何を…!」

気付いたら副会長が目の前に立っておられました。
僕の顎を、副会長の細く長い指が掬い取って上を向かせた。
会長が何やら大声で叫んでいるが、僕は今のこの状況を理解することだけで精一杯だ。

「へぇ、結構きれいな顔・・・」
「オイッ!!」

「ン、・・・・・・・・・んンっ!?」


会長の叫び声が聞こえたと思った。
何だろうと、疑問に思う暇のなく、塞がれたのは何と、副会長と、僕の、口。


「ふく…っ…んン…」
「はっ、可愛いねぇ。和彦が気に入るだけのことはあるよ」
「っ、な、に…?」

「ざけんなっ!」
「おっと」
「ンむっ!」

副会長が離れる。副会長を僕から離したのは、ベッドに伏せているはずの会長だった。
僕と副会長の間に銀の糸が引いた。銀の糸って、言っちゃえば涎だよね。…恥ずかしい…。

「てめぇ…、何したかわかってんだろうなぁ」
「わかってるよ。いいじゃない味見くらい」
「よくねぇ!てかテメェ忙しいんじゃなかったのかよ」
「忙しいよ。どっかの誰かさんが風邪拗らせてくれちゃって本当に迷惑だよね」
「て…めぇ…っ…!」

「あう…、あ、あの…」

口論を始めた会長と副会長に、僕の居場所がなくなりつつあるんですが。てか会長体調悪いんじゃないのかよ!

「あー、ほらぁ、和彦のせいで音波君が戸惑ってるじゃないかぁ」
「音波の名前呼ぶな!」
「む、いいじゃんねぇ。ねぇ?音波君」
「うえっ!?あっ、は、はい…?」
「ほら、音波君から許可得たし。てか寧ろ和彦の方が無理矢理呼んでるんじゃない?」
「ンなことねぇ!!」

「……」

ごもっともです、副会長。
恐ろしくて口が裂けても言えませんが。

「まぁいいや。じゃあ僕は仕事に戻るから。くれぐれも大人しくしてるんだよ?和彦」


パタン。

副会長が出て行った。それだけで何故か色んな意味で安心した僕がいたのは、何故でしょう。



************



「あー…、えっとぉ……」

「………」


助けて下さい副会長!!!

副会長が去ってから、一言も喋ってないですけど!この空気痛いんですけど!!」


「…オイ」
「っ!は、はい!」

しゃ、喋った!!」

「…無理矢理、じゃねぇよな…」
「…はい?」
「っ、だから!お前の、名前…」

最後の方が段々小さくなって聞き取れなくなった。だけど会長が伝えようとしたことはしっかり理解出来た。

「まぁ、吃驚しましたけど、名前で呼ばれるの嫌いじゃないですし」
「…そっか」

あ、何か嬉しそう。

胸が一瞬、締め付けられるような感覚がしたが、僕にはその正体がわからない。

「じゃぁ、僕も和彦って呼ぼうかなぁ。なぁん…て…、え…」

「〜〜ッ!!!!」

冗談で言ってみただけ、だったのに。
そこに居たのは、耳まで真っ赤にした会長の姿だった。

「え、え、ね、熱!?だっ、大丈夫ですかっ!?」
「ぅおっ、お、オイッ!!?」

まさか熱が上がったのかと思って、思わず会長の額に額を合わせる。
そして会長の赤みが増したような気がする。

「んー…熱は、ないようですけど…、本当に大丈夫ですか?仕事熱心なのもいいですけど、本当に体調には気を付けて下さいよ?」

ムー…と真っ赤な顔でむくれる会長がどこか可愛らしくて、ちょっと噴き出してしまった。

「…たまたま不調だっただけだ」

意地を張ったような会長に、僕は堪え切れず笑いが止まらなくなった。

「〜〜〜っ!…クソッ」
「うわっ!」

ドサッ

「…え?」
「…煽った音波が悪い」


目の前にいる会長の顔には影が射して、その後ろに見える天井が異様に明るい。

俺…会長に、押し倒されて、る?

そこまで思考が行くのに時間が必要だった。
鈍い思考のまま、会長の顔が近付いてくるのだけがわかった。だけど、動けない。

「他の奴にキス、許しやがって…」
「…え…?」

触れた。唇に、何かが触れた。

そう、思った瞬間、体に掛る重みに我に返った。

「っ!?かっ、会長!?」

触れ合う会長の体が酷く熱い。


ああもう、どうしよう。

胸元で荒い息の会長を見て、何故だか少し落ち着いた。

そうだ、そう。きっと熱があったから、あんな行動とっちゃったんだ。


そうだよね、会長。


僕は激しく高鳴る胸をどうにか抑えようとした。




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(´ω`*)(#´ω`)

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あきゅろす。
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