中編小説
4
宝が来るまでそのあどけない顔を見つめる。
涙で赤くなった目許や、白い肌に散りばめられた所有印を見て罪悪感がないと言えば嘘になる。
何度許しをこうたか。何度謝られたか。でも止まらなかった。
ハッキリとは告げていなくとも、十中八九咲希の好きな人は宝だ。
それがあまりにも自分にとって近しい人で、取られてしまうんじゃないかと思ったら止まらなかった。止まるはずもない。
「隆一?どうした」
玄関は開けていたから宝が自由に入って来た。
いなくて探しただろうが、宝はちゃんと俺と咲希がいる寝室にやって来てくれた。
宝を見た瞬間、胸がもやもやとした。
「?誰かいるのか?」
「いるよ」
またヤったのか。という眼差しとは別に、宝は何か感じたのか、誰だと尋ねてきた。
布団を少しズラして咲希の顔を覗かせた。
「っ!?」
咲希を認識した宝の反応で、俺の知らないところで何かが起きていたのだと知る。
宝の顔が怒りに染まっていく。
俺は咲希の髪の毛を撫でながら、宝から目を逸らして口を開いた。
「俺わかったんだ。俺は咲希が好き。だから誰にも渡したくないんだ」
俺は狡いことしている。
宝はそのフレンドリーさから色んな人に好かれる。だけど宝は"特別"を作らない。友情も、好意も含めて。
宝は冬樹と似たところがある。
これが咲希ではなくて、奈津でも他の誰かだったら、きっと宝は無反応だった。
「どういう、つもりだ」
「どういうも何もそのままの意味だよ。だから奈津争奪戦からも抜けるよ」
空気を伝って宝の苛立ちを感じ取る。
やはり、宝にとって咲希は"特別"なのだ。
「…同意の上なのか?」
「…さあね。でも必ず咲希は俺のものにする。必ずね」
宣戦布告。宝は受け取る?
「…勝手にすればいいじゃないか」
不機嫌そうに宝は吐き出した。受け取らなかった。
大切な友人だからもう一回訊いてあげる。
「宝はそれでいいんだ」
宝が身じろいだのがわかった。
気にとめず、導かれるままに咲希の唇に自分のソレを寄せた。
――ガンッ!
「ほら、やっぱり」
「っ、隆一、いい加減にしないとキレるぞ」
寧ろ既にキレているんではないのか。
壁に力強く打ち付けたその拳は痛そうだ。きっと痛い。
だけど今の宝にはそんな痛みを気にする余裕などないのだと思う。
「咲希は俺の親衛隊隊長。利用するつもりなどなかったが、咲希が手に入るなら何でもするよ」
それ程ほしい。今までの時間すらも欲しい程に。
久しぶりに宝の顔を見た。
その瞳の中には確かな怒りが含まれていて。
「…好きにすればいい」
宝は悔しそうに顔を歪め、身を翻して出て行ってしまった。俺と咲希だけの空間に、バタンという音が届いた。
改めて咲希の顔を眺めた。
整った、綺麗な顔立ち。睫毛は目に入って痛いんじゃないかというほど長い。襟足が長く普段は隠れている項が時々覗いて不埒な感情が生まれてしまう。
過去の自分と共に謝っていきたい程の過去に、今更過ぎて溜め息が出る。
咲希は俺が謝ることを望むような人間ではないだろう。
だからこれから愛していきたいという俺の気持ちはいらぬお節介だ。所詮は自己満足。
だけど。だけど愛していきたいんだ。俺なら、幸せに出来る。
Side,神山end
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