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中編小説







山吹君が先に保健室のドアを開けるが、そこには誰もいなかった。
2人っきりの空間に、緊張でどうにかなりそう。

「あ、じゃあそこら辺に座って」
「はっ、はいっ」
「…ははっ」
「…?」

山吹君は堪えきれないというように顔を歪ませた。笑顔に。
その笑顔に僕の胸は高まる。仕方ないでしょ、…好きなんだから。

「は、はは!どもっちゃって可愛いなぁ」
「…っ!、」

僕、今なら死んでもいい。死なないけど。山吹君がいるなら死なないけど。

「熱、はないみたいだし、じゃあ大丈夫かな」
「っあ」

体温計を置きに離れようとした山吹君の服の袖を無意識に掴んだ。
ハッとなって僕は気まずそうにはずそうとした。だけど何故か手が離れない。
ドクンドクンと高鳴る鼓動が、この静寂を伝って彼の元に行かないことを願ながら。



Side,山吹


俺の服の裾を柔く掴む藍沢が可愛い。
何故隆一はこんな可愛い藍沢をあんな毛嫌いするのか。親衛隊というだけで、彼らの想いを拒絶するのはいけないと思う。
奈津の見た目がヲタルックなだけで卑下する周りの奴らに激怒している隆一は、俺から見たら他の奴らと同じことをしているようにしか思えない。
だけど、隆一が相手にしないならそれでいい。手など、一生出さなければいいのだ。

藍沢は恥ずかしそうに俯いた。だけどその手は離れない。
そんな藍沢の行動が俺の全てを擽る。わかった、コレは、

「俺のことは宝って呼んでよ、――咲希」

――恋心だ。



Side,山吹end

(´ω`*)(#´ω`)

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