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中編小説
アナタに会いたかった





「っ、はぁ、はぁ…」

視界の下で、僕の胸が苦しげに上下する。
何をあそこまで怖くなって逃げ出したのか、僕でもよくわからない。
本命がバレて、山吹君に今以上に近付けなくなること?裏切り者、と罵られること?
どれも正解だろう。

「もうっ、やだ…っ」

こんな想い、苦しいだけならいらないのに。
ヒンヤリとしたコンクリの壁に背中を付けてズルズルと座り込む。体育座りをする僕は滑稽だろう。
膝に顔を埋める僕は、人が近付いてるのにも気付かず。

「ねぇ君、大丈夫?」

ああ、彼の声に似ているな。
何て、そんなことを考えながら顔を上げるとそこにいたのは。

「っ!や、まぶき、く…」

心配そうにしゃがみ込むその人は正真正銘山吹君その人で。

「え?俺のこと知ってるの?」
「っ、は、い…」

知ってるよ。知ってるに決まってる。

「ああ、君もしかして隆一の親衛隊の」
「あ…、……は、い…」

親衛隊何て野蛮な集まり、彼は軽蔑するだろうか。

「隊長の藍沢君だよね」
「っ!!」

名前、名前呼んでくれた!知っててくれた!
どうしよう、それだけで僕死ねちゃうよ!

「藍沢君が隊長になってから制裁や問題が減ったって隆一言ってたよ。ありがとう」

頭をその大きな手が撫でた。
あ…、と思った時には遅く、僕の目から涙が伝っていた。

「っ!?だ、大丈夫!?どこか痛いの!?」

僕の為に狼狽える山吹君が愛しい。
何で彼は身も知らぬ僕にこんなに必死になってくれるのだろうか。
誰にでも優しい山吹君のそれが長所であり、僕にとっては短所であった。

「う〜…、…あ!ほ、保健室行こう。ほら、立てるかい?」

僕の両手を、山吹君の大きな両手が掬い取って優しく立たせてくれた。
その時の僕は、触れられた、離れることのないその手に僕の全ての感覚が集まって、正直保健室までの道のりは覚えていない。

(´ω`*)(#´ω`)

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