中編小説
9.さようならの時間だね
その時がやってきてしまった。
「沙英」
「なんですか、原君」
妙に真剣な虎太郎の顔。ああ、終わりなんだな、と直感的に思った。
「話したいことがある。放課後、裏庭に来てくれないか」
僕らの関係が始まった場所。虎太郎はどうやらロマンチストのようだ。この関係そのものがロマンチックではないけれど。
僕は声に出さず、頷いた。
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「悪い、遅れた」
「そんなに待ってないですよ」
放課後すぐ、虎太郎が担任と一緒に職員室行ったとは聞いていたし、そんなに焦らなくてもよかったのにと思うくらいに虎太郎は息を切らしていた。
そんなに早く、あの子の元へ行きたい?
「沙英、俺、告白する」
「うん」
「だから、別れてほしい」
「…うん」
二人の間に沈黙が流れた。
「俺と別れたら、沙英は会長と付き合うのか?」
「…かもしれない」
「…そっか」
何が「そっか」だよ、って思った。
一様、フッたのは虎太郎で、多分今の僕たちは他人という関係になった。
簡単な関係だったなぁと思う。
「原君、告白、しに行かないの?」
この空間がいたたまれない。でも、自分からこの場を立ち去る勇気もない。
「告白するよ。でも、行かない」
だって、
「もう、告白する相手はここにいる」
そう、虎太郎は言った。
あの子がいるのだろうか。この場に?
「…、じゃあ、僕は帰る、ね」
虎太郎との、最後の、さよならの時間だね。
「待って。この場には沙英と俺しかいない」
それでもわからない?と言ってくる。
「…わからない」
「本当に?」
「…?」
会長に鈍感と言われた僕の頭じゃわからないよ。
「だから、今から、俺は沙英に告白をする」
「っ!?」
真剣な目で、そんなことを言われたら誤解してしまう。冗談だって、真に受けてしまう。
「意味、わかんない、し。原君は、あの子のこと、」
「ずっと傍にいた子を好きにならないって保証はどこにある?」
そんな保証あったら僕は虎太郎には恋をしなかった。
「会長のことが好きで、でも俺のためにと俺の傍にずっといてくれた沙英を気になって、好きになった」
虎太郎の顔が歪んだ、と思ったけど、実際は涙で視界が歪んでるだけだった。
「今朝、会長に言われたんだ。『沙英が俺の告白を受けることはない、俺の片思いだから』って。よくわかんなかったけど、でも、会長に沙英が捕られてしまうなら、ちゃんと告白しなくちゃ、って思った」
それ以上言われたら、きっと声も出なくなる。
「会長にだけ笑って気を許しているのはすごくムカつくし、沙英と二人っきりにも、部屋にも入れてほしくない。でも、俺にそれを言う権利はなくて、ずっとイライラしてたんだけど、やっぱりイヤなもんはイヤなんだよな」
もう一度言う。
「俺は沙英が好きだ」
愛したのがきみでよかった
END
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