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連載番外編
22


人が倒れてると見れば駆けつけてしまうのは医者の性かそれとも平和ボケの精神の名残か。

とにかく庭に落っこちかけてる家臣の人に近づけば、自分と酷似した包帯巻きの腕が目に入る。



「すまんが、薬師を呼んでくれんか」

「・・・・・・」



いやいや、呼ぶより先に部屋に行くべきでしょう。

よく見るとその顔は見覚えがあり、包帯を体中に巻いた上頭巾を被った姿はそうだ大谷吉継、通称刑部殿だ。

杖を突きながら歩いていたらしい大谷は数珠の散乱させながら、自分を廊下に置いたまま薬師を呼んで来いというような事を言うので梔子は心の中でツッコミを入れた。

先に部屋に帰るのを手伝ってくれと頼め。人はそこまで薄情ではない。

そう思っていたら声を出したことすら重労働だったらしい病人はかっくり廊下に倒れこむ。

意識はあるが動く気力は無いらしい。

空中移動は無理だったのだろう。仕方ない。病人には優しく。



「・・・・・・」

「なっ!」



ひょいと抱え上げれば驚いたように身体を硬直させる。

抵抗はありまくるようだが押しのける力が無いほど弱っているようだと判断した梔子は大谷を抱えたままさっさと廊下を音もさせずに走ってあっという間に大谷の部屋の前に到着。

多分輿より早いと思う。


驚いているのか文句を言わない大谷を背中に背負い直して片手で障子を開け、畳に座らせその間に押入れから寝具を引っ張り出す。

あちこちに書物が積み重なっていて広い部屋が狭い。お世辞にも片付いているとはいえない部屋だ。

それでも場所を作り布団を整える。診療所で鍛えられた布団を敷く速さは宿の仲居さながらであり、すぐさま一人分の床の用意は済んでしまう。シワ一つない完璧っぷりである。



「・・・世話をするといいやるか」

「・・・・・・」



てきぱきと一連の動作を顔を洗うより速く終らせてしまう忍に、大谷が呆れたような声で呟く。

とはいえ声を返すにも梔子は口布で覆っている。

聞こえていないふりをしてさっさと布団に寝かせ、天井裏へ消えていった。



がらんと人の居なくなった部屋の中、ふうと息を吐き出すと共に上半身を起こした大谷がぼそりと言う。



「・・・変な忍よ・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・無言で後ろに立つでないわ」



しかし後ろをふり向けば、なんか文句ですかと言う目をした同じ忍が立っているので、とうとう呆れた声でため息をついた。

廊下に落っことしてきた数珠をごとごとと畳の上に持ってきた忍はこれで数はあっているかと大谷に尋ねる。

音声にはなっていないが多分そういっているのだろうと大谷がああ合っていると答えれば、そうかと頷き今度は部屋の前でひっくり返っていた輿を運び込んできた。



「やれ・・・頼んでおらんぞ」



そう意地悪く言ってみる。

すると忍はぴたりと一瞬だけ動きを止めるて輿を畳に降ろし、埃をはたいて出て行った。



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あきゅろす。
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