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9話『ともだち』


こももを連れてきた場所はよく訪れる小さな川。

まだ飼い犬になれていない彼女が人間の子供と遊ぶのは早いと思ったのだ。


「ここなら遠慮せずに遊べるやろう?」

『やったぁ!!』


俺をグイッとすごい勢いでひっぱり、川に向かうこもも。

リードを手に絡めていたため、解く間もなく俺はこももと一緒に川の中に入ってしまった。


「ぶあ!」

『ひゃっほ〜!』


楽しそうに川の中で遊び回るこももを横目に俺はすぐに立ち上がった。

犬にすればいつも裸でなんら問題はないらしいが人間は服を着ているから大問題だ。


「なにするん!?」

『え?なにもしてないよ?』


しかし、本人は自覚がないらしい。

それほどまでに連れてきたところに流れる、この小さな川が魅力的ならしい。


「ま、楽しそうやからええか。」


可愛い愛犬の幸せそうなこと。甘い俺は一人納得し、こももが遊ぶ姿を見ていることにした。

それから数分。


「仁王?」

「なん?」

「仁王先輩、なんスか、このワンコ。」


ブン太と赤也は恐らくさっき、散歩中の俺の姿を見て追ってきたんじゃろう。

二人は今まで居なかった犬のこももを物珍しそうに見つめていた。


「俺んペット。」

「仁王がペット?なんか信じられないな。」

「動物なんて好きなタイプでしたっけ?」


赤也に聞かれ、俺は素直に答えた。


「あんま、好かんね。」

「だよな?それがなんで?」

「こもも、こっちに来んしゃいよ?友達紹介するけぇ。」


名前を呼ばれ、すぐに反応した彼女は喜んで川から上がってきた。


「うわ、ちょっ!」


びしょ濡れになった彼女は俺らのとこまでくると水気を払おうと身を震わせた。

その滴は案の定、俺たちにかかった。


「バッ!冷てぇし!!」

『ごめんなさいな。』

「…コイツ、自分のやったこと理解してんのか?ずいぶん態度がデカく見えんだけど。」

『何てったってワンコだからね!』

「俺的にそういう性格好きっス、」


ブン太は頭を撫でようと手をこももの上にかざすが彼女は手先のニオイを嗅ごうと首をいっぱいに伸ばした。

噛み付かれるとでも思ったのかブン太はすぐに手を引っ込めた。


「悪いが、コイツは俺のなん。ブンなんかにやらん。」

「いらねぇし!」


ブン太と話している間、暇になったらしく、こももはブン太のケツのニオイを嗅いでいた。


「うおっ!ケ、ケツなんかのニオイかぐな、バカ!」

『だって、挨拶しなくちゃね!』


犬の挨拶、というところだろうか?

しかし、ブン太にはそれがわからないらしい。俺も知らんかったがこの時に知った。


「こもも、おまえさんなにしちょるん?」

『ご挨拶!みんなこうするの。』

「や、やめろー!!」

『なんで嫌がるのぉ?』


嫌がって逃げ回るブン太を追うこもも。本人は受け入れてもらえないと感じたらしいが、ブン太はそう思ったのではない。


「こもも、人間にしちゃあケツのニオイを嗅ぐなんて恥ずかしいことなんよ?」

『そうなの?』


こももはそう聞くと首を傾げた。

しかし、こももから離れて息を整えているブン太を見て尻尾の動きが激しくなる。


『恥ずかしいことならもっとしてやらなくちゃ!』


そして再び楽しそうにブン太の元へ行った。どうやら反応を楽しんでいるらしいがその時は温かい目で見守っていた。


「また来やがった!」

『覚悟しなさーい。』

「やめろってばバカ犬ー!」


こももは余程、ブン太が気に入ったんだな、なんて俺は暢気(のんき)に考えながら見ていたのだった。
















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