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8話『人間と犬』


と、まぁ。こんな流れで無事にこももは家族になれた。

そんな俺たちの思い出は数知れず。

それを一部始終とはいかんが、思い出深い話をしちゃるけぇ。



まずは初めてリードを付けた日。


『………なにこれ、』

「リードって言うらしいん。」

『そんなこと聞いてるんじゃないし。』

「岡田さんが用意してくれたん。」

『首が苦しい!しかも自由じゃない!!』

「仕方なかよ。道路に飛び出したらいかんもん。」


ダダッと走り出したこももはリードがあるというのにおかまいなし。

リードが限界まで延びるとビンッ!と突っ張る音と共にシルバーチェーンの首輪が絞まる。


『げっほげっほ!』

「大丈夫か?」

『あたしそんなにバカじゃないもん!こんなのいらない!』


プイッと不満げにそっぽを向くこももだが、これは犬の散歩時のマナーらしいのだから仕方ない。

野良犬だったなら尚更、放浪癖があるしいなくなられたら困る。


「よし、散歩つれてっちゃるから。機嫌直しんしゃい。」


こももは散歩と聞くと嬉しそうに玄関まで来るとドアを開けてもらえるのを心待ちにしていた。

少し扉を開けるとその隙間から尻尾を振って外を見ている。おまけにその隙間から香る外のにおいをかいでいた。

余りに可愛い姿を見て、ついつい意地悪したくなる。期待を裏切り、ドアを閉めてやると同時に尻尾が垂れたのだった。


『まーさーはーるー!!』

「ぶっ、くく…」

『早く行こうよー!!』

「はいはい、」


こもものリードをしっかり右手で握り、ドアを開けて外に出た。

そこでまず注意する。


「俺ん隣歩かんかっからすぐに帰る。いいか?」

『はぁーい、』


適当に返事をするとこももは俺より少し先を歩いた。

話を聞いていたのか?


『どこに行く〜?』

「んー…そうやのう。」

『雅治はいつもどこに行くの?』

「俺はいつもはな?」


タタッと走り出すとこももが慌てて俺について走る。

小さい体だから必死だった。


「こうして走りながら友達んちに行くん。」

『友達ってなに?』

「家族とは違う大事な人んこと、」

『ふーん?』


俺は普段ランニングするコース、ブン太と赤也の家の前を通った。


「あれ、仁王先輩?」

「なんだ、あの犬は。」


あまりにこももと走るんが楽しくて二人に気づきもしなかった。


『雅治!あそこまで競争!』

「いいぜよ〜?」


先の方にある看板まで足を早める俺たち。

まだまだ体が小さいこももは精一杯走っていたが俺には少しの余裕があった。

しかし、いつしかそれも逆転するのだろうな。


「よし、ゴール!」

『むー…負けたぁ。』


そんなランニングがあまりに楽しかったから、俺はテニスの試合で負けて落ち込んでいたことなんか忘れていた。


『水ー!水がほしいー!!』

「そこに公園あるから、そこに行くか。」

『うん!』


現時点でリードの感覚になれたのか、こももは俺の隣を歩くようになっていた。

賢いものだ。


『子供がイッパイいる。』

「ここは子供が遊ぶところやもん。」

『じゃあ、子供だからこももも遊べる?』

「おまえさんは“人間”やないからダメなん。」


そう言うと、どこか寂しそうな眼差しで公園内を見るこもも。

一緒に遊びたいと思うところからすると子供は嫌いではないらしい。


「そんな顔しなさんな?こんなところより、もっと楽しいところ連れてっちゃるきに。」


“こもも”が一緒に遊べるところに――と言えば彼女は嬉しそうに尻尾を振っていた。

二人でいればどんなところでも楽しかったんだ。
















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