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7話『新しい家族』


母親が部屋の扉をノックするが答える気はさらさらない。

こももをとられまいとキツくに抱きしめた。


「雅治、開けて?」

「今は話す気ぃないん。あっち行きんしゃい!」

「母さんが悪かったわ。雅治の気持ち考えないで……いつも仕事ばかりしていたものね。」


さっきこももに話しかける俺の声を聞いてか、母親の反応は変わっていた。

もしかすると岡田さんも俺の味方をしてくれたのかもしれない。ドッグフードを買ってきてくれたくらいじゃし。


「岡田さんも世話してくれるって言うし、大切にしてあげなさい?だから拗ねてないで出てきなさい。」


まだ子供臭さが抜け切らないこの時の俺は認めてもらえて嬉しかった。こももを、そして俺の気持ちも。


「お母さんにも新しく来た家族を紹介してちょうだい?」


そう言われ、安心してこももを手放すことが出来、部屋から出ようと思ったのだった。


「たまには、母親らしいこと……して見せんしゃい。」

「そうよね、」


扉の鍵を開けて扉を開けると両手を広げる母親がいた。

まさか抱きしめようっていうのか。


「おいで、雅治。」

「こんな年になって母親に抱きつくなんてするわけなかろうに。」


フイッと顔を背けるが気にもせず、抱きしめる母親に抵抗した。


「久しぶりだな。こうして抱きしめてあげるの……」

「ッ、……キショ、」

「何とでも言いなさい。」


ポッカリ空いた穴が満たされていく、そんな感じがした。

母親とはこんなに温かいものだったかと考えてしまうほど、俺は母親の存在を忘れていたようだった。


『…雅治?』


臆病なこももは部屋から少しだけ顔を覗かせ、においで辺りを確認していた。

その鼻先を見た母親は笑いながら言った。


「それでこの子が雅治のペットね?」

『こいつ誰!?』


こももは母親に気付き、すぐに反撃しようとする。

身を低くし、尻尾をピンと立て、背中の毛を逆立てる。そして、生え始めた短い歯をむき出していた。


「こもも、大丈夫。」

『雅治は…あたしんだもん!!』


こももは母親に抱かれる俺を見て、とられると思ったのか唸り始める。

そしてついにワンワンと吠えた。

しかし、母親は動じもしなかった。


「この子の名前はなんていうの?」

「こもも。」

「メスなのね?」

「あ、あぁ…」


なにを考えているのか知らないが母さんはポケットの中からビスケットを出した。

母さんのポケットからはいつもなんでも出てくる。なぜか知らんが。


「ほーら、こもも?これがなにに見える?」

『……ビスケット、』


前でチラつくビスケットに自然と追って目が動く。

このときのこももは完全に母さんから主(おも)きがズレていた。


「よし、お食べなさい。」


落ちてきたビスケットをキャッチするとこももは満足そうに尻尾を振っていた。

母さんはこももにいくつかビスケットを与えていった。


「ここに来なさい?」

『はぁーい!』


たかが数個のビスケットで完全に母さんに懐いている。術中にハマったと言えばいいのか。

母さんに尻尾を振っているのを見ると少し安心できた。

しかし、俺より母さんに懐いているように見えて面白くなかった。侮れん。


「母さん!」

「なに?」

「なに、じゃなか!」


こももを奪い、抱き上げてギュッと抱きしめ、忠告する。

俺が大事なものはみんなにも大事にしてほしいと思う。だが、必要以上に大切にしてほしくなかった。

だって、飼い主は俺。じゃろ?


「コイツは俺ん。」

「はいはい。」


こももと一番仲が良いのはずっと俺でいたいから。


「ごめんね?でも家の主が誰か覚えさせとかないとね?」


フフフッと艶妖に笑う母親に俺は初めて恐怖心を抱いた。


「犬は食べ物で吊るのが一番なの。」


まるで、俺以上にこももを理解しているようで……。
















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