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6話『一人にはならない』


飼えない、とそうハッキリ言われ俺の心は珍しく傷ついた。飼えないではなく、実際は飼いたくないと言われたんだとわかったからだ。

そして、なにかこみ上げる物があった。


「……俺ん気持ちも知らんくせに、」

「雅治さん、落ち着いてください。」

「うるさい!」


岡田さんが落ち着かせようとして近づいてくるのに対して声を上げた俺に母親は若干驚いていた。

そして段ボールに入れられた犬に目を向けて母親を睨んだ。


「雅治!」

「俺は絶対こいつを飼う。」

「うちでは飼えないって言ったの聞こえなかったの!?」


母親の口調が荒くなる中、俺は犬を箱から出してやった。それから俺は部屋に逃げるように走った。


『あー苦しかった。』

「わんこ、来んしゃい。」


俺の声に犬は珍しく忠実についてきた。

犬を取り上げようと追い掛けてくる母親なんかに犬を渡すつもりも、話し合うつもりもなかった。


『ねぇ、いい加減わんこってやめない?名前ないの、名前〜』


後ろでごちゃごちゃ言う犬に気を遣う余裕はなかった。

ただ、この時は母親の方が強く、自分の無力さに悔しさを覚えたからだ。


「……ッ、」

『(……泣いてる?)』


犬が部屋に入るのを確認してすぐに鍵をかけ、その場で俺は座り込んで泣いた。

子供みたいには泣かないが、大人みたいに我慢は出来なかった。


『…………』


犬は無言で俺の隣に座ると、頬を伝う涙を優しく舐めとってくれた。


「母親らしいこと何一つしたことないくせに、」

『………』

「絶対にさせん。」


この犬の境遇を少し垣間見てしまった今、捨てるなんて酷いこと出来ん。

もし彼女を捨てるなら、この犬はまた独りになるだろう。

だが、なにか不安だから犬に確認してみたりする。


「なぁ、おまえは俺と一緒におるじゃろ?」

『……仕方ないから一緒にいてあげる。あんたが独りにならないように。』


犬は俺の足の隙間を潜り、股の間に入ってきた。俺達は向き合うように座っていた。


『あんたの名前は?』

「仁王雅治、」

『雅治ね。』

「おまえさんは?」

『……名前なんかないよ。さっき言ったでしょ?』


この犬が言うさっきがいつのことかわからんかったんは違うことで頭がいっぱいだったからかもしれん。

なんにしても、愛着を抱き始めてしまった今、この犬に可愛い名前をつけてやろうと頭をひねった。


「じゃあ、俺がつけちゃる。」

『本当?』


そう言うと嬉しいのか、尻尾の先を少しだけ揺らす犬を見て俺は嬉しくなった。

ところでこの犬は喋り方からしてメスだと思い込んでいたが本当にそうか確認はしていなかった。


「おまえさん、メス?」

『今更?』

「メスだよな?」

『それはなにを見て判断するの?』

「顔?」

『ふつうはお尻とかお腹を見て判断するの!』

「ケツはわかるが……なぜに腹?」

『……なんでもいいでしょ!エッチ!』


自分から言ったくせになにを恥ずかしがっているのか。そもそも犬に羞恥心があったなんて驚いた。

フイッとそっぽ向いた犬を見て俺はなんとなく理解した。


「(…ツンデレなんか?)」

『ところで、名前は決まったの?』


気がキツいくせに、本当は甘えたがりで寂しがり屋。

俺はその内面を見て可愛い名前を付けることにした。


「こもも。」

『へ?』

「おまえさん、本当は甘いん。」

『?』


こもも自身は理解していないだろう。いや、きっとずっと理解できないだろう。


「小さいからこそ、甘えていいんよ……こもも。」

『それあたしの名前?』

「うん、」


理解しなくていい。

おまえが理解すべきなのは俺、仁王雅治のことだけでいい。


「これから、俺が守るからな。」

『……う〜、』


嬉しさを表に出さないように気のない返事をしていたが正直者の尻尾はしっかりと俺の気持ちを受けとってくれていた。

彼女が孤独にならないように俺が守ると自分に誓った。


『……雅治!』

「なん?」

『雅治!』

「どーした?」


名前を呼び、返事が帰ってくる度に嬉しそうにするこもも。

そんな愛らしい仕草を見せる彼女は俺の大事な家族になった。

母親には意地でもわがままを通すつもりだった。
















あきゅろす。
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