5話『野良犬だから』
「雅治さん、雅治さん!!」
俺はあの後、しばらく気を失ったまま目覚めなかった。その間に事が運んでいて、俺が起こされた時には見たことがない天井がまず見えた。
「……?」
「目覚めました?よかったー…これから怪我した部分縫いますから。」
「なん!?」
起こされて早々告げられたことに動揺している俺に構わず、医者は針を俺の腕に向けていた。
「ちょ、なにするん!?やめー!!」
「はいはい、我慢してね〜…」
必死に抵抗するも無駄に終わる。俺は傷口を数針縫われ、おかげで目が覚めた。
帰りの車の中、俺はブスッとふくれっ面をしていた。別に俺を病院に連れてった岡田さんに怒っているわけではない。
「そんなに怒らないでください。あれだけ切れていたら縫わなくてはいけませんよ。」
岡田さんになだめられるが、機嫌は直らない。目覚めて急に縫われたのが気に食わなかったからだ。
さらに犬を一人にしたことも気になる。
「わんこは?」
「おうちにいらっしゃいます。先ほど由紀恵さんがお目覚めになったので任せてきました。」
「由紀ねぇが!?」
由紀恵とは俺の姉。
両親が忙しいため、必然的に姉が母親みたいに口うるさくなっていた。そのため、俺し苦手だった。
「由紀恵さん、ただいま帰りました。」
「あ、岡田さん、おかえりなさい。雅治どうだった?」
「3針くらい縫いました。でも、そんなに深くはないみたいです。」
「そうなんだ…男ってどうして傷をよく作るのか、わからないわ!」
明らかに俺の話をしている由紀ねぇから逃げようと隅の方を歩く。
視界に入らないようにしていたが、無理だった。
「あ、雅治!」
「(ゲッ…)」
「あんなしつけがなってない犬連れて来ちゃって〜!」
「まぁまぁ、由紀恵さん。いいじゃないですか、雅治さんもいつも一人で寂しいんですよ。」
岡田さんが仲介人になってくれたおかげで俺はその場から逃げることがでした。
しかし、この人間は出し抜けない。
「雅治、この犬はなんなの!?」
「母さん!?」
「まったく、どうするつもりなの!?」
段ボールに詰められた犬が中で暴れ、今にも破れそうな箱を母親が指を指した。
母は栄祥学園という氷帝学園の姉妹校の理事長で日中はいない。
だからこんな時間に家にいるほうが不自然だった。
「なんで母さんがおるん!?」
「朝、由紀恵から連絡もらって帰ってきたの。」
「じゃあ、お母さん私は出かけるわ。」
「あ、行ってらっしゃいませ。」
岡田さんに見送られ、由紀ねぇはそそくさと鞄を持って逃げるように出かけた。
告げ口しよったのか。
クソ姉貴、なんて内心で悪態をついた。直接言うと反撃が怖いから言わん。
「家の中に犬がいるって聞いたからね。」
「……雨ん中、ドロドロになってて、急に目の前で倒れたん。見ないふりなんかできん。」
そう訴えた俺の気持ちを母親は察してはくれなかった。冷たく言い放った言葉に唖然とした。
「そう、なら今はもう元気だし、綺麗になったんだから外に返しなさい?」
「返、す?」
「だって外にいたんでしょ?」
「こんな小さいのに「うちでは飼えないの。」
日中は岡田さんがいるが、基本は独り。
少なくとも姉が塾から帰る夜まで一人で家にいなくてはいけない。
“なんとなく寂しい”
そんな俺の気持ちなんか考えてくれてないんだ、と思うと悔しく思った。
普段、感情をあまり表にしないこの俺が顔を歪ませたのだ。
怪我の心配より邪魔者を排除する方がこの人の優先順位なんだとわかると自分の母親に失望した。
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