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17話『引き裂けやしない』


家に帰ると岡田さんがずぶ濡れになった俺となにもないその手中を見て言った。


「あら…こももさんはどちらへ?」

「そのうち帰ってくる。」


なにか事情があると感づいたのかなにも言わなくなった。

ただ、無言でタオルを渡してくれた。


「問題が起きたときは当人同士で話し合うんが良いって岡田さん言うたよな?」

「え、えぇ…」

「こももを捨てたつもりなかよ。じゃけ、犬には犬の事情があるんじゃろうな。」


窓の外を眺め、こももの帰りを待った。

人間に関してなにか前に辛い思いをしたんかもしれん。そう思うとこももが考えを整理し、決意を固めるまで俺は関与しないほうが妥当なんじゃ。


「はっくしょん…!」


それから数日後の話。

濡れたままでいたせいで完全に風邪を引き込んでいた。

油断大敵という言葉を無にしてなめた結果だから仕方なかのう。


「また雨か。」


気分も憂鬱になるからいい加減雨はいらん、と悪態をついていた。

そんな呟きがお天道様に伝わったのか、午後になりようやく空に青い部分が少し見えた。

その青さを窓から眺めていたその時だ。


『雅治…!雅治ー!!』


雨音とは違うものが聞こえた。


「(帰ってきたんか?)」


窓から外を見ると泥まみれになり、引きちぎられたリードと首輪をくわえているこももがいた。

俺はすぐに窓を開けた。


「帰ってきたん?あの犬との喧嘩は終わったん?」

『アイツ、こももは間違ってるって言うの!でも、こももは雅治のペットでいることを後悔してない!』

「……」

『こももは雅治から愛されてる!』


瞳を潤すには十分だった。

こももが俺のそばにいることを後悔しないと言うのだから。


「えらい自信やのう。」

『…愛してないの?』

「愛しとうよ。」


俺の返事を聞いたこももは尻尾を振って喜んでいた。

こももは迷わず俺を選んだ。

ペットと飼い主の絆はどれだけ強いか、俺達によって実証されたようなものだった。


『じゃあ、ただいまー!』

「おかえりんしゃい。」


こももを迎え入れ、風呂に入れてる最中に聞いた話だとすぐに帰ってこられなかったとか。


『あの後、囲まれちゃって大変だったの!で、闘ってきたわけ。みんな弱っちぃの!』

「(こももが強すぎるんじゃなか?つか、そんな強気で勝ち気な雌犬なんて怖い。)」

『中には強い犬もいたから取っ組み合いながら泥の中を転げたの。』

「それでそんなに汚れちょるんか。」

『そのせいでリードも首輪も壊されちゃった……また買ってくれる?』


ペットが飼い主を信頼していて、飼い主がペットを愛している証拠とも言える首輪やリードが壊れた。

それで恐る恐る俺の顔色をうかがいこももは尋ねたのだろう。

俺は一言だけこももに伝えた。


「もちろん、」


言うまでもなく、こももは尻尾を振って喜びを表していた。

こもものために費やす自分の労力、エネルギー、資力はどんなに犠牲となっても少しも厭わない。


「臆病過ぎたのう、」

『なにが?』

「いや、なんでもなかよ。」


いつまでも一緒にいられるわけではないと現実的な見方をしてしまったためにこももを突き放す形になった。

しかし、失ってわかったことがあるん。


「今を一緒に生きればそれで良いんよね。」


だから先のことは考えんようにした。

怖い夢を見ていたのはいつかはこももを失うかもしれない、と思っていたのかもしれない。

それ以来、怖い夢を見る頻度は減った。


『雅治、大好きだよ!』


これは愛情と友情、共に深めた出来事だった。

俺は二度と自分の甘えられる場所、小さな体で精一杯愛してくれる“リトルピーチ”を手放さない。











** END **

#2008.2.24(完結)

連載『キミは生きた』のサイドストーリーみたいになっていました。が、『犬ラヴ』にも出演していたこももの犬時代はこんなんだった、と思ってもらえれば幸いです。

『キミは生きた』のこもも(デフォルト)を仁王が溺愛する理由はここにあったわけです。自分を愛し、孤独から抜け出させてくれた彼女を守りたいと思ったという。

このお話、中学2年生のレギュラーになる前からの物語となります。それで赤也とブン太が出てきているのです。彼等はレギュラー以前に仲がよかったに違いない、と勝手に思ってました*笑

仁王は体が小さな甘えんぼさんを『小桃』という意味で『こもも』と名付けます。ここだけの話、仁王が好きな果物は桃ならいいな、というやつです。


お付き合いくださり、感謝いたします。


來恋拝




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