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16話『あの日も雨だった』


空を見上げながら歩いているとポタッと顔に滴が落ちてきた。

どうやら雨がまた本格的に降り出すらしい。


「こもも、急がん?雨がまた降りそうじゃ。」

『それはそれでいいじゃん?濡れるのも楽しいよ?』

「洗うのは誰だと思っとう?」

『雅治ー!』

「シレッと答えなさんな。」

『はいはい、ご主人様でー………!』


言い終わる前に急に立ち止まったこもも。

俺はまさか彼女が立ち止まるなど思いもせずに歩いていたからリードが突っ張った。


「ね、姉ちゃん?」

『アンタ生きてたの!?』


原因は道路――と言っても幅は広くないが――を隔てて会話をしている犬。

どうやら知り合いのようだ。


「まさか姉ちゃんに会えるなんて思わなかった!!」

『あたしもだよ!元気そうだね!!』


しっぽを振り、まるで再会を楽しむように見えた。

俺にはこももの声しか聞こえないがそれは理解した。


「!」

『どうしたの?』

「に、人間……姉ちゃんなんだよコイツ!つか、なんでそんな首輪してコイツに従ってんだよ!!」

『雅治は悪い奴じゃないよ?』

「人間を恨んでたこと、まさか忘れちゃいねぇよな?」

『雅治は違う。』


なにかもめているらしく、相手の犬は耳を威嚇しているように下げて歯をむいていた。

こももも耳を下げていたが相手の威圧に圧されているようだった。


「姉ちゃん人間は嫌いだって言ってたじゃんかよ!!」

『雅治だけは違う!人間だけど雅治だけは!』

「きれいごと言ってんじゃねぇよ!そいつだって人間だろうが!」


こももが俺を見上げ、戸惑った目で見つめてきた。


「こもも?」

『雅治も…人間…』


彼女の思考になにか変化でも生じたのか、こももは俺から数歩遠ざかった。

雨がポツリ、ポツリと音を立て、肩や髪を濡らし始めた。


「こもも、何か不安なん?」

『……』

「良く考えんしゃい。自分の生きる道を、」


俺に関して蟠(わだかま)りがあるならそれを解消してこい、と…そう言いたかった。

こももの声を聞いているとそんな感じがしたからだ。

失うなら突き放した方がいいと思う反面、こももならその冷たさに挫けず、帰ってくるかもしれないと期待していた。


「(約束したもんな。ずっと一緒って。今度は俺が信じて待っててやる。)」


こももを拾って勝手に連れて帰ってきたことで何か問題が生じるなら、解放してやろう。

じゃけ、ユエん時に俺の帰りを待ったこもものように俺も待つ。

約束したから。


「じゃあ…またな、こもも。」

『雅治…!』


こもものリードから手を離し、俺は走った。

犬には犬の世界があるし、こももにはこももなりの考えがある。

迷わせるくらいなら手放しちゃる。

困らせるくらいなら突き放しちゃる。

じゃけ、いつかは帰ってきんしゃい。


「(俺が待ちくたびれる前に、)」


大粒の雨が痛い。

音が耳を支配し、無音にさせる。


『雅治ー!!』


気持ちを正して帰ってこいこもも。

中途半端な気持ちでいるとまた体調を壊しかねん。


「そういや…」


こもも。

俺がおまえさんを拾うた日も雨じゃったのう?
















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