15話『雨降り』
怖い夢なんてガキん頃に嫌ってほど見たのにその夢の内容をはっきり覚えていたり、あの頃とは違う恐怖を感じたのは初めてだった。
しかし日々、危機感を感じるような夢を見、精神的に参っていた。
大切なものを失う、その恐怖故に蒸し暑い部屋の中、布団はけ落としていたが今日も俺はこももを抱きしめていた。
『あーつーいー!!』
グッと背伸びをして目覚めたこももは俺の気も知らず、腕の中から飛び出した。
毛皮を纏(まと)っている彼女にすれば、俺以上に暑いのかもしれない。
ベッド際のサイドテーブルに置いてあるエアコンのスイッチを入れ、冷風が降りてくる位置に移動する。
賢いものだ、とこももを眺めて褒めていると目がキラリと輝いた。
『雅治、起きたなら散歩行こう?』
目を輝かせる彼女を見て、少し安心する自分がいた。
いつものこももだ、と。
しかし、残念なことに外から自然的なメロディーが聞こえてくる。
「外、雨じゃ。」
『うそぉ!』
カーテンの隙間から外を見て、尻尾の動きかピタリと止まった。
「仕方なか。散歩代わりに遊んじゃるから…」
お気に入りのボールでさえ、見向きもしない。
よほど外に行きたかったのか、それとも無い物ねだりか――恐らく後者だろう。
『………』
こももはあれからずっと窓際で外を眺めていて、いつも振っている尻尾は力なく垂れている。
『散歩行けない…』
「仕方ないじゃろ?この梅雨時期に雨なんか上がらんよ。でも、もし雨が上がったら連れてっちゃる。」
『…………』
こももは散歩と言葉を漏らし、ずっと空を見ている。
雨足が弱くなる度に雨が止むのではないかと期待するらしく、時たま尻尾が動いていた。
午前中はザンザン降りだったが午後になってようやく晴れ間が見えてきた。
『まーさーはーるー!!』
「だってまだ小雨。」
『行ーきーたーいーのぉ!!』
「はぁ、わかった。」
これくらいのワガママなら聞いてやるか、と思ったんが間違いだったん。
小雨でも雨が降っているのには変わりない。
『早くー!』
でも、はしゃぐこももを見ると可愛くて文句も言えないのだった。
「リード持った。袋持った。水持った。首輪した。……忘れもんはなか。よし、行くぜよ。」
玄関のドアを少し開けると隙間から外を覗き見るこもも。
よほど散歩に行きたいんだな、と可愛げな仕草に静かに笑いながら玄関を開けた。
は、いいが…その瞬間に彼女は飛び出したのだった。成長しないのう。
「こら、」
『うぐっ!!』
しかし、リードで繋がっているこももは動こうとしなかった俺のせいで首が締まった。
自業自得じゃ。
「飛び出して車にひかれでもしたらどうするん?」
『ふぁ〜い。』
少し反省した素振りを見せたから俺はGOサインを出す。
彼女は嬉しそうに尻尾を振りながら一歩を踏み出した。
『湿気臭い。』
「仕方なかよ。雨上がりやもん。まだ少し降っちょるけえ。」
雨上がりのにおいなんかへでもない。
こももと一緒なら、どんなことでも全てが楽しいんよ。
お前さんもそうじゃろ?
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