10話『予想図』
楽しそうにしているこももを止めるのはもったいないと思っていたが赤也はそうではなかったらしい。
「助けてやらないんスか?」
「だって、楽しそうやし?」
相当ないたずらっ子じゃ。
まぁ、赤也からすれば俺が放任主義者だと思ったかもしれんが。
『はぁ〜楽しかったぁ。』
「気は済んだん?」
『うん!』
こももの頭を撫でる俺を見て赤也が再び理解出来ないと言わんばかりに口を開いた。
「あんま好きじゃねぇのに、なんでなんすか?」
「それはさっきの質問の続きか?」
「だって、さっき答えてくれなかったじゃないスか!」
「……こもも、独りなんよ。動物は好かんけど、こももじゃから世話しようかと思ったん。」
どういう風の吹き回しなんスか?なんて言う赤也に俺は苦笑するしかなかった。
「……あれ、仁王先輩。その右手どうしたんスか?」
「あぁ、これ?鏡が倒れて割れた破片で切ったん。」
「左じゃなくてよかったスねー!テニスできねぇもんな〜」
そんな会話をしている隣ではオレンジ色に化した空を見てブン太が声を上げた。
「あー!どーりで腹減ってきたと思った!」
「ブン、おまえさんはいつでも腹減りさんじゃろ?」
「うっせ、」
二人に別れを告げ、その背中を見送るとこももが口を開いた。
『……ねぇ、雅治?なんでさっき本当のこと言わなかったの?』
「なん?」
『鏡のこと!』
気にしているのか、右手の包帯を見てこももは目を伏せた。
耳を下げて、尻尾を力無く垂らしている。どうやら反省しているらしく、元気がなかった。
「本当のこと言うたぜよ?」
『っ、でもぉ!』
「いらんことまで言わんとダメなんか?」
こももを悪く言う気はなかった。だって、反省しているのに責める必要はない。そうじゃろ?
『ごめんなさい、』
「治るから平気。」
『治るの!?それいつ?明日?』
「ブッ、ククク…」
『?』
昔見た有名なアニメ映画に出てくる女の子が言うてた言葉を思い出した。
口は達者なくせに、あまりに子供じみた考えに笑ってしまった。
「早くに治るぜよ。」
『よかった!』
犬を飼ったことがない人や動物が好かん人は犬に表情なんかない、と思うかもしれん。
じゃけ、今んこももは嬉しそうだった。きっと誰にでもわかるくらい。
『あー!遊んだらお腹空いたなぁ…』
「……よし、家まで競争じゃ!」
『あ、ずるいー!!』
先に走りだした俺に続いてこももも走りだした。
俺の行く先を時々、見上げて確認しながら隣を走っていたこももは不安そうに尋ねてきた。
『ねー、雅治?』
「なん?」
『明日も散歩、連れてってくれる?』
「いいぜよ、」
『やった!』
俺は彼女を“犬”とは思えなかった。
大事な家族ではあるが、
「恋人ってのはこんな感じじゃよな、」
彼女を恋人の理想図として思い描いた。
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