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7話 恋しちゃった


会議が終わると跡部は真っ先に唯智の部屋に向かった。

ノックをしても返事がないということは寝たのだろう。

しかし、好奇心で跡部が扉のノブを回すとすんなりとドアが開いた。


「不用心だな。おい、唯智?」

『……ん、』

「部屋の鍵くらい閉めて寝ろ。」

『……せ、…せい。』


布団から唯智の手がのびると跡部の首を抱き、引き寄せた。


「おい!」


声をかけるが彼女はどうやら夢の中らしく、跡部は諦めた。


「(動けねぇ、)」


唯智に抱きつかれて跡部は身動きが取れないまま、時間は経つ。

細い腕を見て、跡部は一言呟いた。


「……早く、太陽の下。出れるといいな?」


髪を撫でると柔らかく、シャンプーの香りがした。


「……唯智、」


優しく耳元で囁き、額にキスを落とすと跡部も唯智を抱きしめた。


「おやすみ、」


そう跡部が言ってから約6時間経過すると唯智は目を覚ました。


『……?』


いつもと違う違和感に唯智は寝ぼけることなく目を覚ました。


『あ、とべ…せん………きゃあああ!!』


もちろん耳元で叫ばれた跡部も飛び起きたが、周りに住んでいる教師たちも飛び起きた。


「なにごとっスか!?」

「なにが起きたんだよ!?」

「なにがあったんや?」

「なになにぃ?」


ぞろぞろと唯智の部屋に教師たちが集まる。

目に入った光景、跡部に抱えられてベッドの中にいる唯智を見て目を丸くした。


「跡部…どういうことか、説明してくれる?」


怒りを押さえながら幸村が黒い笑みを浮かべて跡部に迫っていた、が。


「……ふ、昨日の唯智は可愛かったぜ?」

『なっ!?』

「それはどういうことか…詳しく話してくれるかなー?」


未だに唯智を手放さない跡部に幸村は今にも呪いをかけそうな勢い――と切原は思ったのだった。


「(幸村部長が怖い、)」


そのやりとりを見ていた仁王は呆れて部屋から出ていってしまった。


『あ、』


寂しそうに呟いた唯智を見て宍戸が腕まくりをして跡部に近づいた。


「いい加減に起きやがれー!!」

バキッという効果音が合うだろう。

跡部は宍戸に殴られ、完全に目を覚ました。


「…にしやがる!!」

「おまえがいつまでも寝ぼけてるからだ!」

「ああん?俺様がいつ寝ぼけてたっていうんだ?」


言い合いに発展する中、唯智を手放そうとはしない跡部に忍足が一言言う。


「なぁ?まずは唯智、放してあげられへんの?」

「…………悪い、」


唯智はようやく自由になると部屋から教師たちを追い出そうとする。

それに気づいた芥川はみんなの背中を押して部屋から出した。


「はいはい、出るー!」

『あ、くたが…わ先生、』

「じゃあ、唯智。またね!」


困惑する彼女はどう頭の中を整理すればいいかわからず、一人部屋で涙を拭った。


「(こういう時は岳人だな…)」


芥川は直感ですぐに向日に連絡を入れる。

すると彼はまだ店の開店時間ではなかった故、すぐに飛んできた。


「唯智!」

『が、がっく……』

「誰だよ!唯智を泣かせた奴は!」


向日は絶対許さない!と眉をしかめたがすぐに優しく唯智に声をかけ、抱き寄せて気が済むまで泣かせてあげた。

唯智が落ち着いた頃、向日に事情を話始めた。


「あーなるほど、跡部がね。」

『イヤだったんじゃなくて……ビックリしたの。だけど……』

「だけど?」

『跡部先生、寝ぼけてたからあんなこと言ったんだと……』


“昨日の唯智は可愛かったぜ?”


「(なるほど、ちょっとショックだったわけね。跡部、軽そうに見えるし…)」

『私を見た仁王先生は呆れて出ていっちゃうし……恥ずかしくて。』

「……まず、跡部の発言をフォローさせてくんね?」

『うん、』

「アイツ、軽そうに見えるけど最近は女と絡んだって話聞かないぜ?実際はすげぇ一途なんだよ。だからたぶん…唯智が本当に可愛いと思ったんだと思うぜ?」

『……………仁王先生は?』

「たぶん、仁王はみんなが騒ぐことはなにもなかったんだとわかったからその場を立ち去ったんだと思う。あまり騒ぎ立てると唯智が傷つくと思ったんだろうなー」

『………そうなんだ。』


腫れぼったくなった目を見て向日は水道へ向かう。

そして、タオルを濡らして唯智の目に当ててやった。


『ねぇ、がっくん?』

「ん?」

『……仁王先生が毎日、夜散歩に連れていってくれるの。』

「へー?あの仁王が、」

『月の下なら怖くないだろ?って言ってくれたの。』

「うん、」

『嬉しかった。』

「そうか。」

『日記を書いてメールする相手の先生も言ってくれた。太陽の下で会おうって。それまで正体は見せられないって…』

「(交換条件…アイツらしい。)」

『跡部先生もすごく優しくて、いつも頭撫でてくれる。いつも頑張ってる唯智は格好良いって言ってくれるの。』

「そっか〜」


向日は話を聞いていて気づいたことがあった。

直球を投げて困惑させるわけにはいかないから簡単に述べることにした。


「唯智、おまえさ?」

『うん?』

「“恋”したんじゃね?」


向日の言葉を聞き、唯智は黙っていたが頬がほんのり赤みを帯びていることを知ると向日は優しく笑いながら彼女の髪を撫でた。


「ゆっくりでいいんだって。俺、唯智が月の下とはいえ外に出られるようになったこと聞いてマジ嬉しかったもん。」

『……太陽の下に出られると思う?』

「一人では無理かもだけど……“いつか”な?」


意味深長なことをいう向日に疑問符を浮かべるが深くは追求しなかった。


『がっくん?』

「ん?」

『いつもありがとう。』

「唯智の親代わりだから、俺。」


そう笑った彼は照れ隠しと言わんばかりに声をあげた。


「よーし!唯智のために昼飯作ってやるー!なにがいい?冷やしうどん?ラーメン?そーめん?」


そんな向日の優しさは唯智にとってなによりも心地良いものだった。


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