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4話 運動不足


気が利かない二人に邪魔をされ、イヤそうにしている跡部に切原たちは笑いながら返答した。


「堅いこと言わないでくださいよ、跡部サン〜!」

「一番に授業したかったのに幸村くんに先越されちゃうし。ついてねぇ〜」

「………はぁ、」

「つーわけで、天才様が授業しにきたぜぃ☆」

『おはようございます、丸井先生、切原先生!』


気にせずズカズカ踏み込んできた二人に完全に呆れた跡部は立ち上がった。


「後は任せる、」

「任してください!」

『あ…』


部屋を出ていってしまった跡部を見て唯智はなにか胸に引っかかった。


『丸井先生、切原先生、待ってていただけますか?』

「あぁ、かまわねぇよ?」


許可を得ると唯智は一目散に部屋を出て走っていった。


『跡部先生!』

「なんだ、なにか用か?」

『授業ありがとうございました!』

「……わざわざそれを言いに?」

『お礼、言えなかったので……』


唯智は太陽の光を恐れているというのに窓から日が煌々(こうこう)と差し込む廊下に出、お礼を言うために自分を追ってきたことを知ると嬉しさで胸が満たされた。

しかし、顔には出すまいとジャケットを脱ぎ、誤魔化すように唯智の頭から少し乱暴に被せた。


「部屋から出たら太陽に当たるだろうが。早く部屋に戻れ。」


唯智は跡部が心配してくれたことがすぐにわかり、目を細めて笑った。


『次の授業で返しますね、コレ。』


それだけ言うと、唯智は部屋に戻った。

跡部は壁にもたれ掛かり、口元を押さえていた。


「ああいう女に俺は弱いよな……」


勝ち気な女性がタイプと答える彼だが実際とは違い、素直で優しい女性に惹かれるのだった。


『ただいま戻りました。』

「あ、唯智!お前廊下なんかに出て平気――ってなんだそのジャケット。」

『跡部先生が太陽の光に当たらないように被せてくれたんです。』

「へー?跡部サンが。」


唯智はジャケットから香る“大人の香り”に口元を緩ませるのだった。


「(あの跡部が?絶対なんかある。)」


なにか丸井は嗅ぎ付けたようだったがあえて口にはしなかった。





切原と丸井の授業はごくごく普通の雑談で終わった。

彼ら教師にすればあまり唯智に教育を施すと言った概念はないようだ。


「そうだな〜…やっぱ昼間部屋にいる分、運動不足になりますよね?」

「確かに。太陽に当たらないとカルシウムも生成されないし、難しいな〜…」

「唯智、一回忍足サンにでも骨密度測ってもらえよ。」

「それいいな!」

『わかりました。』

「運動不足に関して言えば……あ!夜なら太陽の光はないわけだし、必ず散歩をするってのはどう?」


切原はいつかの向日の言葉を思い出しながらそう言う。


「唯智ってさ?部屋に隠りきりだから運動不足云々(うんぬん)で成長できなかったんだと思う。身長なんか145センチしかないし……」


切原は成長期に運動をする大切さを知っているため、唯智にそのように提案したのだ。


「散歩じゃなくてもスポーツでも良くね?暗くてもライトを照らせばスポーツなんかできるし。」

「確かにうちはナイター設備も整ってるっスよ?でもいきなり激しいことは出来ませんから、まずは散歩から。」

「なるほどね、」

『わかりました。』

「そういや、赤也。おまえ次の時間、体育の授業入ってるんじゃね?俺もだけど、」

「うわ、ヤベ!じゃあ、唯智。また来るな?」

『ありがとうございました!』


結局、二人が部屋を出ていったのは10時過ぎ、2時間も雑談で時間を潰したのだった。

それからの30分後、次の教師――仁王が現れた。


「邪魔するぜよ、」

『あ……』

「こんにちわ?」

『こ、こんにちわ。』


少し意地悪そうに口元をあげた仁王に唯智の心臓は跳ね上がった。

緊張しているのだ。


「さっき目合ったな?」

『あ、はい。たまたま外見てたら仁王先生がいて…』

「名前もう覚えてくれたんか。関心関心、」


仁王は頷きながらそう言うと教科書を投げ捨てた。


「この部屋涼しいのう。」

『湿気臭くないですか?』

「エアコンあるから平気じゃ、」

『そうですか……毎日のようにがっくんが言ってたんです。』

「なんて?」

『カビかキノコが生えるぞ!って……』

「キノコなら食べられるじゃろ。」

『なんか不味そう。』


唯智は仁王に対して少し警戒心を持っていたがこの時、それは薄れていた。

仁王が親しみを込めて話しかけたからだろう。

しかし、なにもかも知っている、と言わんばかりの鋭い眼差しを克服出来たわけではない。


「そういや、赤也が言うとった。夜は散歩しろって。」

『はい、運動不足って言われちゃいました(笑)』


力ない笑みに仁王は微笑み返した。


「知っとう?この辺、出るんよ?」

『え?』

「……怖いの苦手?」

『す、好きな人なんかいないと思いますよ?』

「そうか?俺ならお友達になりたいのう。」

『本当に?』


眉を下げて言う唯智に仁王は我慢しきれず笑いが漏れた。


「唯智って可愛いのう、」

『か、可愛い!?』

「見てて飽きん。」

『………私は観察対象物じゃありません。』

「いいや、それに近いものはあるな。」


頬を膨らませた唯智を見て、ますます彼女を気に入ってしまった仁王は話を戻した。


「ここの学園のある教師が昔、愛した一人の生徒を幸せに出来なかったという理由で自殺したん。今はすべて跡部(理事長)の手で改築されて一からやり直しちょるけど……」

『っ、』

「今、その教師は昼間は社宅と寮の間を行き来してるって言われとうて――あ!!」

『きゃああああ!!』


仁王が唯智の背後を指さすとびっくりした彼女は仁王に抱きついた。


「ククク、悪い悪い。」

『……』

「唯智?」


ギュッと抱きつかれた仁王は少しやりすぎたか、と自分の言動を省(かえり)みた。


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